つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4 TJB2005G112201

進 化 遺 伝 学     Evolutionary Genetics

科目番号: G11 2201  
単位数: 2単位
標準履修年次: 2・3年
実施学期 曜時限: 第1・2学期: 木曜日 2時限
担当教員: 小熊 譲


第1学期(担当教員: 小熊 譲)

授業概要:
 地球上の生物の多様性には眼を見張るばかりである。これは生物が変化してきたという事実、すなわち進化してきたという事実の一つの証である。生物進化の問題は様々な方法によって追求されている。J. L. Monod は大胆にも次のように述べている。 "今日では進化の基本的機構はたんに原則として理解されているだけでなく、詳細に吟味され、確認されているといって良い。種の安定を保証している機構そのもの−−DNA複製の不変性、生物の合目的的首尾一貫性−−がそれに関係しているだけに、この解決はいっそう満足のゆくものである。それでも、進化という概念は、今後とも長らく生物学の中心概念として豊かになり、そして精密にされてゆくであろう。しかし本質的な点に関しては問題は解決されており、進化はもはや知識の未開拓の領域にあるとはいえない." しかしながら進化(種分化)についてはまだまだ未解決の問題が山積している。本講義は種分化の様相を集団遺伝学の理論と実験結果を中心として総合説にもとづいて解説する。

授業内容:
(1)進化遺伝学の概要、研究方法、現代社会における意義
(2)進化の素材としての突然変異の重要性
(3)遺伝子突然変異とその率、検出方法
(4)染色体突然変異
(5)集団の定義 遺伝子型、遺伝子プール、遺伝子頻度
(6)進化の過程 理想集団の意味とその遺伝学的応用
(7)進化の要因そしての突然変異    
(8)進化の要因としての移住、浮動
(9)自然選択と進化の総合説        
(10)進化過程としての殺虫剤抵抗性の発達

前提科目・履修上の注意事項:

単位取得条件、成績評価基準:
レポート。夏休みの宿題として、進化、遺伝もしくは生物学に関係のある本を1冊読み、1200字程度で”書評”を作り、さらに”考えたこと” を付け加えてA判レポート用紙にまめ、2学期の最初の時間に提出する。やさしい進化の解説書は不可。できるだけ1人の著者が書いた、思想性豊かな本がよい。例:種の起源(岩波文庫、ダーウン)、生命の誕生と進化(東大 出版会、大野 乾)、偶然と必然(みすず書房、モノー) 

指定教科書:

参考書・文献:
集団の遺伝 北川 修; 集団の進化 大羽 滋(UPバイオロジー、東大出版会)

オフィスアワー: 月曜日3時から6時、生農棟B412   

備考(受講学生に望むこと):


第2学期(担当教員: 小熊 譲)

授業概要:
 1学期の講義において進化の素材としての突然変異の重要性について総合的に解説した。生物の個々を遺伝子型として表し、遺伝子頻度を用いて集団の取り扱い方を学んだ。そして集団にどのような要因が働いて、集団の変化(進化)が生ずるかを理解した。集団の変異をどのようにして表したら良いかについて解説する。1966年、生物集団が従来考えられていたよりずっとたくさんの遺伝的変異(タンパク質多型)を保有していることが、二次元電気泳動法を用いて明かにされ、変異の保有をめぐる考え方が大きく変わりはじめた。そしてこれは、木村資生博士による分子進化の中立説の確立へとつながる。一方生殖的隔離は生物進化を考える上で重要な現象である。生殖的隔離の様々な様相について解説する。次に種形成の代表的な実例を取り上げ、研究方法について解説する。最後にショウジョウバエにおける配偶行動において生殖的隔離がどのように働いているかを解説し、本講義のまとめとする。

授業内容:
(1)集団の遺伝的構造 集団の変異の数量化 
(2)夏休みのレポート発表
(3)変異の保有機構の仮説とタンパク質多型およびその進化
(4)染色体多型と進化
(5)生殖的隔離 交配前隔離
(6)生殖的隔離 交配後隔離
(7)創始者原理と種分化 
(8)形態進化と分子進化
(9)ショウジョウバエの配偶行動とその遺伝的基礎
(10)まとめ 配偶行動の進化と雌による種認識

前提科目・履修上の注意事項:

単位取得条件、成績評価基準:レポート、論述試験、学生による授業評価

指定教科書:

参考書・文献:

オフィスアワー: 月曜日5時から6時、生農棟B412 

備考(受講学生に望むこと):
進化(種形成)に関する解説書、読み物は世の中にたくさんある。図書館にもたくさんある。一般に、解説書をたくさん読むとすべてわかったような気分になってしまい、勉学の方向を見失う恐れがあるので注意されたい。進化遺伝学の授業履修によって、遺伝学にもとづいた進化を理解できるようになることを望む。進化遺伝学の問題点と方法論について、遺伝子の多面発現の面から議論したい。さらに諸君がこの講義によって、進化の総合説を正しく理解し、ヒト集団の将来を遺伝学的に考える一助となれば幸いである。


©2005 筑波大学生物学類