つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4 TJB2005G300701

発 生 学 I     Embryology I

科目番号: G30 0701  
単位数: 2単位
標準履修年次: 2・3年
実施学期 曜時限: 第1・2学期 木曜日 1時限
担当教員: 林  純一、齊藤 康典


第1学期(担当教員: 林  純一)

授業概要:
 高等動物の発生学の研究領域は近年驚異的な伸展を遂げつつある。その中から特に初期発生における遺伝子発現の制御機構に関する分子生物学的研究を中心に総合的に解説する。更に連日マスコミで報道され注目を浴びているマウスやヒトの胚性幹細胞を用いた再生医療や遺伝子治療と胚操作に関する発生学の応用分野 (戦略的発生学)の研究に関しても、末梢的断片的知識ではなく統合的な理解が得られることを目標とする。

授業内容:
(1)  導入:備考欄にある項目の確認;講義全体の概観 実験発生学や遺伝発生学で利用されている技術 (1) (cDNAとゲノムライブラリー;遺伝子とゲノ ム;ヒトゲノムとDNAチップ;精子の微量注入法:生きたマンモスを再現できるか?)
(2)  実験発生学や遺伝発生学で利用されている技術 (2)(タンパク質のアミノ酸配列から遺伝子へ、ハエを餌にマウスを釣る・釣れた遺伝子の評価系としてのKOマウス作製)
(3)  発生分化とゲノムの不変性(初期胚の全能性、商業発生学:優秀なクローン乳牛、人工臓器、クローン人間も可能だ!でもテロメアと寿命が短い?着床前遺伝子診断=神に代わって我が子の命を操作する!毛根や末血は全てを語る;ゲノムは完全に不変ではない;胚幹細胞と人工臓器)
(4)  発生分化の不可逆性:もう赤ちゃんに戻れない (1)(分化した機能の獲得と引換に全能性を失う、分化した細胞からクローン羊ができたのではない?クローン羊は脱分化ではない。決定と分化の不可逆性の例外、決定の転換、分化の転換;再生現象や傷の治癒に脱分化を伴うという誤解=幹細胞の分化を脱分化した細胞の分化の転換とした誤り;がん細胞は脱分化しない!)
(5)  発生分化の不可逆性:もう赤ちゃんに戻れない (2)(不可逆性の実体は何だ?! MyoD 遺伝子でわかり始めたこと、全能性はどのようにして制限されるのか?メチル化)
(6) 発生分化と遺伝子発現の調節(オペロン説、唾液腺多糸染色体とパフ、初期発生で眠りから覚める遺伝子の特徴;DNA結合タンパク質と転写因子、成長因子とシグナル伝達)
(7)  形作りの普遍的ルール:物質の勾配(母性細胞質因子の勾配による位置情報、胚の遺伝子発現による新たな勾配の形成、中期胞胚変移、再生における勾配、勾配の撹乱による奇形)
(8)  初期発生の遺伝子発現と誘導の連鎖 (1):Xenopus leavis を中心として (灰色新月環 と前後背腹軸の形成と原口背唇とオルガナイザー、成長因子TGFbスーパーファミリーに属するア クチビン、胚葉誘導と3シグナルモデル)
(9)  初期発生の遺伝子発現と誘導の連鎖 (2):(成長因子の勾配と転写因子、胚遺伝子が整然と眠りから覚めていく;オルガナイザーの実体=金鉱をめぐる新たな激しい競争と混乱の時代)
(10)  シスエレメントとホメオティック遺伝子と種の進化(遺伝子重複とシスエレメントの突然変異、ホメオティック遺伝子と体節の変化、ホメオティック遺伝子とホメオボックス遺伝子、眠っている遺伝子をたたき起こす:マウス組織がトリにトリの歯を生やす;四枚翅のハエ;後肢のあるクジラ)
(11)  報告書提出;研究者の法則(大切なのは好奇心か名誉か倫理か。実力や利害は道理や倫理を押しのける)

前提科目・履修上の注意事項: 発生学概論を履修していること。

単位取得条件、成績評価基準: 講義内容の忠実な再現についての報告書。

指定教科書:

参考書・文献: なし。

オフィスアワー:
F602 (内6650、特に時間は指定しない)Email: jih45@sakura.cc.tsukuba.ac.jp

備考(受講学生に望むこと):
互いの集中力維持のため、授業中の飲食私語と携帯電話使用禁止


第2学期(担当教員: 齊藤  康典)

授業概要:
 生物の新しい個体が生まれることは劇的で興味深い現象である.一方生長が止まり老いて死に至ることも重要な生命現象である.発生学は,この様な新しい個体が生まれ,そして滅していく現象を理解しようとする学問である.本講義では有性生殖による個体の発生だけでなく,無性生殖による個体発生,再生による形態形成について取り上げ,時間が許せば,老化と死についても取り上げる.現在は遺伝子操作技術の発展と普及により,発生現象を分子レベルで解明しようとする分子発生学が主流となっているが,本講義では,遺伝子操作技術の普及前に,研究者たちは発生現象をどのように捉え,どのような創意工夫をして発生現象の様々な仕組みを解き明かそうとしたのか,今や古典と呼ばれる記載発生学や実験発生学の成果を中心に紹介し,これらの成果が現在の分子発生学の発展にどのように関わってきたか概説する.

授業内容:
(1) 発生学の基本的概念(Basic Concepts in Developmental Biology)
(2) 性,配偶子そして受精(Sex, Gametes, and Fertilization)
(3) 卵割(Cleavage)
(4) 調節卵とモザイク卵(Regulative Egg and Mosaic Egg)
(5) 嚢胚形成(Gastrulation)
(6) オーガナイザー(Organizer)
(7) 軸の決定(Axis Specification)
(8) 細胞凝集と形態形成(Cell Aggregation and Morphogenesis)
(9) 再生と無性生殖(Regeneration and Asexual Reproduction)
(10) 老化と死(Aging and Death)

前提科目・履修上の注意事項: 
発生学に関して高校の教科書レベルの知識があることを前提とする.

単位取得条件・成績評価基準: 学期末試験の成績で評価する.

指定教科書: なし

参考書・文献:
1) 浅島誠著 「発生のしくみが見えてきた」高校生に贈る生物学4,岩波書店
2) 団まりな著 「動物の系統と個体発生」UP BIOLOGY,東京大学出版会

オフィス・アワー:
下田臨海実験センター勤務のためオフィス・アワーをとれません.質問・用事のある人は講義終了後適宜申し出てください.時間が長くかかる場合は改めて時間を設定します.授業日以外の時は,直接電話またはEmailでコンタクトしてください. 
備考:TEL: 0558-23-6358(直通), Email:saito@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp

備考(受講学生に望むこと):


©2005 筑波大学生物学類