つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4 TJB2005G306411

発 生 学 概 論     Introduction to Embryology     

科目番号: G30 6411  
単位数: 1単位
標準履修年次: 1年
実施学期 曜時限: 第1学期 水曜日 2時限
担当教員: 林  純一


授業概要
 動物の発生は極めて身近でダイナミックで魅力の尽きない生命現象で、古くから多くの生物学者の興味を引きつけてきた。しかし近年になり、この分野は再生医療や遺伝子治療の基礎研究分野として爆発的な伸展を始めており、その成果は連日のようにマスコミで報道されている。そこでこの講義では脊椎動物、とりわけ哺乳類の全生活環の中で初期発生が占める位置とその基本的な情報に関して、伝統的で古典的側面に重点を置き、しかも体系づけて理解できるようにする。このことによって発生学Iの講義で取り上げ得る戦略的発生学を理解する上で重要な土台の形成を目指す。

授業内容
(1) 導入:講義全体の概説、生物学と応用学(医学、農学、薬学、工学)、利益を求めない純生物学は戦略生物学の出現により滅びゆく学問になるか?生物学のビッグバン:爆発的な伸展を始めた生物学の世界;生物とは何か?ウイルス、プラスミド、ミトコンド リアは生物か?真実と合意;人間を造ったのは進化か神かは永遠に分からない;大切なのはそを説明する情緒的ではなく客観的かつ合理的な証拠、根拠は何かということだ。
(2) 個体の生涯 (1):有性生殖と多様性(何故兄弟は遺伝的に同じにならないのか?);単為生殖する動物、キリストは女か例外か?パラサイトイヴとミトコンドリアDNA(mtDNA)mtDNAは母親のクローン(お父さんのmtDNAは子どもに伝わらない!)、無性生殖する私たちのmtDNA;Genomic imprinting (ゲ ノム刷込み:女だけでは子どもはできない!)、受精、発生と決定分化
(3) 個体の生涯 (2):運命の分かれ目(体細胞と生殖細胞); Apoptosis (アポトーシス;生のための死)老化とミトコンドリア呼吸活性低下;癌は時限爆弾?
(4) 個体の生涯 (3):永遠の生命とテロメレース;過小評価されてきた遺伝子の力と過大評価されている遺伝子の力
(5) 発生学の基礎概念 (1):前成説と後成説,ワイズマンの生殖質説,モザイク卵と調節卵
(6) 発生学の基礎概念 (2):ゲノムの不変性と遺伝子発現の調節, 決定と分化の不可逆性;クローン羊のテロメアと寿命は短いか?=やっぱり女だけで子どもはできない?
(7) 初期発生の形態学 (1):個体発生と系統発生(個体発生は系統発生を繰り返す=ヘッケル反復説)、発生と大進化(ヒトの祖先がサルなら今生きているサルも将来ヒトに進化するか?ヒトとチンパンジーは同属か;ニワトリと卵では卵が先だ!)前口、後口動物の中胚葉形成と系統分類学;発生学と系統分類学の接点(比較発生学)
(8) 初期発生の形態学 (2):後口動物(棘皮、原索、魚類、両生類)の初期発生
(9) 初期発生の形態学 (3):後口動物(爬虫類)の初期発生;卵黄蓄積と陸上進出による発生過程の変形;陸上生活へ適応した有羊膜類(胚体外膜形成と陸上に卵を生むこと)
(10) 初期発生の形態学 (4):高等後口動物の卵の戦略:多量の卵黄蓄積(鳥類) か卵黄放棄(哺乳類) か?胎生とヒトの発生;多分化能を持つ胚幹細胞と遺伝子KOマウスと人工臓器
(11) 報告書提出:授業内容に対する質疑応答;評価;初期発生の仕組みを探る "発生学I" への招待

前提科目・履修上の注意事項
授業中授業後に質問できるよう心がける。

単位取得条件、成績評価基準

成績評価は主として講義内容を忠実に再現した報告書。

指定教科書: なし。

参考書・文献: なし。

オフィスアワー
F602 (・6650、特に時間は指定しない)Email, jih45@sakura.cc.tsukuba.ac.jp

備考(受講学生に望むこと)

互いの集中力維持のため、授業中の飲食私語と携帯電話使用厳禁


©2005 筑波大学生物学類