つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200100747

海底熱水系微生物の表層構造

亀川 玲(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:桑原 朋彦(筑波大学 生命環境科学研究科)

導入と目的
 1983年、BarossとDemingによって最初の深海熱水噴出孔が発見されて以来、種々の好熱性・超好熱性菌が海底熱水系から単離され研究が行われてきた。 当研究室では2002年の航海で水曜海山とマリアナトラフの海底熱水系で現場培養を行った。 その結果、水曜海山からは3種の微生物が単離され、16S rRNA遺伝子配列から、16S rRNA遺伝子配列から、Defferibacter属、Thermosipho属に属する桿状の真正好熱細菌、Thermococcus属に属する球状の超好熱古細菌と分類され、Defferibacter sp. RV1、Thermosipho sp. FD1、およびThermococcus sp. TS3と名付けられた。 またマリアナトラフの海底熱水系のサンプルから1種の微生物が単離され、16S rRNA遺伝子配列から、Thermococcus属に属する球状の古細菌と分類されThermococcus sp. TM1と名付けられた。
 本研究ではこれら4種の微生物の表層構造を電子顕微鏡で観察比較し、生理特性、細胞融合の有無、系統分類と細胞構造の多様性の関連を調べることを目的とした。

材料と方法
 Defferibacter sp. RV1をJCM medium 151*1を用いて60℃で14 h、Thermosipho sp. FD1を10 g l-1の硫黄を加えたJCM medium 237*2で60℃で12 h、Thermococcus sp. TS3をJCM medium 280*3を用いて90℃で10 h、Thermococcus sp. TM1をJCM medium 280を用いて80℃で10 h培養した細胞を位相差顕微鏡下で観察した。 さらに、グルタルアルデヒドとオスミウム酸による二重固定を施し、酢酸ウランおよびクエン酸鉛染色液で染色して、透過型電子顕微鏡(TEM)により細胞表層構造を観察した。 またグルタルアルデヒドによる固定、白金パラジウムによるシャドウイングを施し、ネガティブ染色法でTEM観察した。

結果
 Defferibacter sp. RV1では外膜、内膜、ペリプラズムと典型的なグラム陰性菌の細胞表層構造が観察された。定常期にはDefferibacter sp. RV1の球状細胞が観察されており、状変化を起こした細胞の表層構造と比較することが今後の課題である。
 Thermosipho sp. FD1では外膜、内膜、鞘状構造、トガ(細胞を取り囲む鞘状構造が桿状細胞の先端で形成する袋構造)が観察された。 定常期には鞘状構造が鎖状に連なる複数の細胞を取り囲んでいる様子や、トガが大きくなり全体が球状になる様子が観察された。 鞘状構造は主に外膜とペリプラズムから成ると考えられるが、トガでは外膜が観察できずその詳細はまだ不明な点が多い。
 Thermococcus sp. TM1では位相差顕微鏡下のアクリジンオレンジ染色による観察で、細胞中に核酸物質の密な部分があるという様子が観察されており、その詳細をTEM画像によって報告する。

(*1http://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm_grmd?GRMD=151&MD_NAME=)
(*2http://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm_grmd?GRMD=237&MD_NAME=)
(*3http://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm_grmd?GRMD=280&MD_NAME=)


©2006 筑波大学生物学類