つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200727

モノクローナル抗体を用いた新規IgM受容体の解析

臼井 健太 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:渋谷 彰 (筑波大学 人間総合科学研究科)

【背景】Fcレセプター(FcR)は免疫系細胞上に発現し、免疫グロブリンimmunoglobulin(Ig)のFc部分に結合することによって免疫系細胞による貪食、抗体依存性細胞傷害、サイトカイン、ケモカイン産生、脱顆粒、細胞増殖、抗体産生の調節等を行い、抗体による免疫反応の誘導に重要な働きをしている。これまでにIgのサブクラスであるIgGに対するFcRとして、FcγRT(CD64)、U(CD32)、V(CD16)が、IgEに対するFcRとして、FcεRT、U(CD23)が同定されており、ノックアウトマウスの解析から抗体とFcRの結合が自己免疫疾患、アレルギーなど種々の免疫反応に深く関与していることが明らかにされてきた。一方、自然抗体の大部分を占めるIgMに対するFcRについてはその分子の同定がなされておらず、その構造、機能は謎に包まれていた。我々の研究室ではIgMに対するFcR、Fcα/μ receptor(Fcα/μR)を同定することに成功したが、Fcα/μRのリガンド結合様式は未だ明らかになっていない。これまでにラットへの免疫によってFcα/μRへのリガンド結合阻害効果を有するクローンの樹立が試みられてきたが成功には至っていなかった。

【目的】Fcα/μR欠損マウスを免疫に用いることによって得られた12クローンのマウスFcα/μR特異的クローンを用いて、そのリガンド結合阻害効果を検討し、Fcα/μRのIgMおよびIgA結合様式を明らかにする。

【方法】12クローンのFcα/μR特異的抗体を用いて以下の実験を行った。1.マウスFcα/μRトランスフェクタントに対し、ひとつのクローンから得られた精製抗体を反応させた後に他のビオチン標識化抗体を反応させて競合阻害効果を検討した。2.あらかじめ各クローンをトランスフェクタントに反応させ、その後FITC標識したIgMおよびIgAと反応させることによりIgMおよびIgAに対する結合阻害効果について検討した。3.粘膜に発現するIgMおよびIgA Fc receporであるPolymeric Ig receptorと ヒト、マウスFcα/μRの間で高い相同性を示すアミノ酸配列部分のpeptide(motif peptide)を合成し、各クローンのFcα/μRへの結合に対する競合阻害効果を検討した。

【結果】競合阻害実験から12クローンは3つのグループに分類された。各クローンのFcα/μRへのリガンド結合阻害効果は、IgMに対する効果とIgAに対する効果に相違はなく、完全に阻害するもの(1クローン)、部分的に阻害するもの(7クローン)、結合を全く阻害しないもの(4クローン)が存在した。また、この結果は競合阻害実験によるグループ分類に沿うものであった。また、リガンド結合阻害効果を示すクローンはmotif peptideと反応させることによってFcα/μRへの結合が阻害されたが、リガンド結合阻害効果を示さないクローンは影響を受けなかった。

【考察】12クローンの抗体によるFcα/μRへのリガンド結合阻害効果はIgMに対する効果とIgAに対する効果に差異を認めなかったことから、Fcα/μRのリガンド結合様式はIgMとIgAに対して相違ないことが示唆された。また、リガンド結合阻害効果を示すクローンのみがmotif peptideとの会合によってFcα/μRへの結合が阻害されたことから、これらのクローンはmotif peptideをエピトープとしていることが示唆され、このアミノ酸配列部位がリガンド結合に重要であると考えられた。Polymeric Ig Receptorにおいてもこのアミノ酸配列部位がリガンド結合に重要であることが示されていることから、両者のリガンド結合様式は類似したものであることが示唆された。一方、motif peptideに対して同様の反応性を示すクローン(TX57とTX61)が異なるリガンド結合阻害効果(完全阻害と部分的阻害)を示すことから、motif peptideのアミノ酸配列のみならず、その他の部位もリガンド結合に関与していることが示唆された。今後は、結合阻害抗体を投与したマウスにおける免疫応答を検討し、Fcα/μRのin vivoにおける機能を解析する予定である。Fcα/μR欠損マウスとは異なり、時期特異的にFcα/μRとリガンドとの結合を阻害することが可能であり、免疫応答の各相におけるFcα/μRの機能を解析する上で非常に有用なツールとなると考えられる。



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