つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200735

酸化ストレス下におけるFOXOサブファミリーとp53の相互作用の解析

片田 吉彦 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:坂本 和一 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<導入・目的>
 FOXO(FKHR)は、フォークヘッド型DNA結合ドメインを持つ転写因子で、癌化やアポトーシスにおいて重要な働きを持つ。これまでの報告により、FOXOは細胞内においてp53と結合し、生化学的あるいは機能的に相互作用をしていることが知られている。また、これまでの当研究室の研究により、これら二つのタンパク質間の相互作用は酸化ストレス(当研究室ではH2O2を使用)による影響を受け、主にp53がFOXOの転写因子活性の調節に抑制的に作用することが明らかになっている。そこで本研究は、FOXOが酸化ストレス下においてp53とどの様に関わり合いながら細胞の生存やアポトーシスの制御に関与するのか、その作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。
<実験>
 実験には遺伝子導入効率が良く、しかも増殖速度が速いCOS7(サル腎臓由来)細胞を用いた。FOXO3とp53の各プラスミドDNA、およびβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むプラスミドDNAをリポフェクトアミンを用いてCOS7細胞に導入した。またルシフェラーゼ遺伝子(Luc)の上流に、FOXOの結合標的配列を連結したIRS-Lucまたはp53の結合標的配列を結合したp53RE-Lucを各々レポータープラスミドとして導入した。48h培養後にルシフェラーゼアッセイを行い、FOXOあるいはp53の転写因子活性を測定した。また、培養終了直前に異なる濃度(100μM,250μM,500μM,1mM)のH2O2を添加して1hまたは3h培養し、酸化ストレスによる転写因子活性への影響を調べた。
<結果・考察>
 まず、H2O2処理を行わずにIRS-LucをレポーターとしてFOXOの転写因子活性を調べたところ、p53を導入しなかった場合に比べ、p53の共発現により約3分の1程度まで転写因子活性の低下がみられた。一方、p53REをレポーターとしてp53の転写因子活性を調べたところ、FOXOの有無による変化は認められなかった。このことから、p53はFOXO (FOXO3)の転写因子活性に影響を及ぼすが、FOXOはp53の転写因子活性に影響を及ぼさないことが分かった。次に、H2O2を様々な濃度(100μM、250μM、500μM、1mM)で異なる時間(1h、3h) 添加し、酸化ストレスによる転写因子活性への影響を調べた。その結果、FOXO3に対してはp53存在下でH2O2の濃度と刺激時間に依存して転写因子活性が変化することが明らかになった。一方、p53に対してはFOXO3の作用効果はみられず、酸化ストレスの強度に依存して活性が低下した。これらの結果から、酸化ストレスとp53はFOXO3の転写因子活性を制御するが、 FOXO3はp53の転写活性には関与していないことが明らかになった。
<今後の方針>
 これまでに観察されたFOXO3の転写活性の変化が転写レベルの調節によるのか、それともタンパク質の結合により起こるのかを明らかにする必要がある。そこで、RT-PCR法を用いて転写レベルでの調節が行われていることを確認し、さらに直接p53が調節を行うのかそれとも下流の別のタンパク質を介しているのかをクロマチン免疫沈降法を用いて明らかにしたい。またp53とFOXO3についての共免疫沈降を行うことにより、二つのタンパク質間の相互作用と介在するタンパク質の同定と解析を行っていきたい。


・2006 筑波大学生物学類