つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200737

造血系転写因子gata1の発現が異常となる突然変異ゼブラフィッシュの探索

金子 寛 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教員:山本 雅之(筑波大学 人間総合科学研究科)

<背景と目的>

多細胞生物が正常に発生するためには、各発生段階を司る転写因子が必要となるが、その転写因子自身の発現制御については未知の部分が多い。そこで、より普遍的な制御機構を理解する一つのアプローチとして、本研究では転写因子GATA-1の制御機構の解明を目指している。

GATA-1は、WGATARというシスエレメントに結合するGATA転写因子群の一員で、血球系の細胞においては,赤芽球,巨核球,好酸球,肥満細胞などに特異的に発現する。またGATA転写因子群はヒト、マウス、カエル、ゼブラフィッシュに広く保存されている。

グロビンなど赤血球特異的遺伝子の多くはGATA-1によって発現誘導されるが、GATA-1を赤血球前駆細胞特異的に発現誘導させる因子は明らかではない。培養細胞を用いた従来の分子生物学的手法での解明は難しいため、私はゼブラフィッシュGATA-1(gata1)の発現に異常をきたす突然変異体の単離と解析という順方向遺伝学的手法を試みた。



<方法>

ENUミュータジェネシス:野生型のAB系統雄をエチルニトロソ尿素(ENU)溶液に1時間浸すことで精原細胞に点突然変異を導入した。このENU処理した雄をAB系統の雌と交配させてF1世代を作製後、このF1世代をAB系統と交配させてF2世代を作出し、スクリーニングに用いた(図1)。
スクリーニング:F2世代同士の交配で得た胚を受精後13時間と18時間の二点で固定した(図1)。gata1は13時間胚では予定造血細胞が存在する側板中胚葉、18時間胚では中間細胞塊(ICM)にのみ発現する(図2)。固定した胚をgata1 probeでwhole mount in situ hybridizationを行い、観察した。

<結果と考察>

現在までに262ファミリー、487.5ゲノム解析した。gata1の異所的発現や発現量異常を指標として変異体を探索し、その結果jt61jt627jt873jt885jt888、の5系統を得た。

 jt61gata1発現の消失と尾の形成異常という表現型から、既知の突然変異体spadetail(spt)である可能性が疑われた。そこで、当研究室で保存するsptb104jt61を交配させ、sptであることを確認した。jt627jt888は13時間胚と18時間胚のいずれでもgata1の発現が減少していた。さらに、jt627ではジアニシジン染色によって37時間胚での血球数減少も確認出来た。jt873は18時間胚(図2)、jt885は13時間胚での発現が減弱していた。これまでに得られた突然変異体は、多型を利用した原因遺伝子マッピングのために、野生型TL系統と交配させた。

約50ファミリーに一つの割合で変異体を得ていることに加えて、その中には既知の変異体も含まれることからも本スクリーニングは順調だと判断する。一世代に約3ヶ月かかるため大変ではあるが、ゲノムを網羅するファミリー数の解析を目指し、今後も引き続きスクリーニングを継続する。 また、スクリーニングと平行して、現在までに得られた変異体の解析及び原因遺伝子の特定とその機能解析を行っていきたい。






















©2006 筑波大学生物学類