つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200741

培養筋細胞に及ぼすミトコンドリア活性化因子(MAF)の影響

熊谷 千明(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:沼田 治 (筑波大学 生命環境科学研究科)   

【研究背景】
 茶の起源は非常に古く、紀元前2000年頃であると考えられている。中国古伝説上の皇帝、神農(しんのう)は、医薬を作る為に100種類の草を嘗めては一日70もの毒に遇い、その度に茶の葉を用いて解毒したという。この逸話の真偽は明らかではないが、いずれにしても茶の効能は4000年前の昔から人々に認められてきたようである。

 近年、茶ポリフェノールの一種であるカテキン類には、抗酸化作用、殺菌作用、抗ガン作用、高血圧低下作用、血糖値上昇抑制作用などの多くの生理作用がある事が分かっている。 その中で、特にスポーツ科学の見地より興味が持たれるのは、カテキンがエネルギー代謝に少なからず影響を及ぼす事である。先行研究において、茶カテキンの主要構成成分であるエピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate, EGCG)がマウスの脂肪酸代謝を亢進させ、食餌性肥満を改善した例や(1)、遊泳運動において持久力を向上させた(2)等の興味深い報告がされている。また、脂肪酸代謝、及び脂肪細胞の分化に関わる転写因子として知られているPPARαおよびγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αおよびγ)とカテキンの関連(3、4)についても報告されている。
 そして、最近の研究において、紅茶から抽出した有効ポリフェノール成分がミトコンドリアを活性化するらしいという事が分かってきた。高分子ポリフェノールを主成分とするこの分画はMAF(Mitochondria Activation Factors)と呼ばれている。ミトコンドリアはエネルギー産生や呼吸代謝に直接関わるオルガネラであり、骨格筋におけるミトコンドリア量・機能活性は筋持久力を左右する重要な要因である。

 そこで、本研究ではマウス由来筋芽細胞株C2C12を用いて、実際にMAFが骨格筋のミトコンドリア機能を活性化するかどうかを1)ミトコンドリア膜電位2)ミトコンドリア関連タンパクの発現3)細胞内ATP量の3つの指標を用いて検証する。さらに、C2C12の筋管形成におけるMAFの影響について、2)筋線維タイプ特異的タンパクの発現解析を元に評価する。



【材料・方法】
 筋芽細胞を増殖培地(10%ウシ胎児血清を含むDMEM)にて1〜2日間培養し、70〜80%コンフルエントに達した時点で分化培地(2%ウマ血清を含むDMEM)に変え、筋管への分化誘導を行う。 分化培地は毎日交換し、分化誘導5〜6日目にMAFを培地へ添加して一晩培養する。これを以下の解析に用いる。
 尚、MAFについては沼田研究室において分離精製されたものを使用する。

1)ミトコンドリア膜電位の測定
 蛍光色素Rhodamine123 (ローダミン123)を用いてミトコンドリア膜電位を計測する。Rhodamine123はミトコンドリア膜電位に依存して強い蛍光光度を示す。蛍光光度の測定はマルチマイクロプレートリーダーを用いて行う。

2)ミトコンドリア関連タンパク質、及び筋線維タイプ特異的タンパク質の発現解析
 免疫蛍光染色法を用いてCOXU、COXW(チトクロムc酸化酵素サブユニットU,W)等のミトコンドリア関連タンパク、及びTroponinT(トロポニンT)、MHC(ミオシン重鎖)等の筋線維タイプ特異的タンパクの発現解析を行う。

3)ATP量の測定
 ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応を用いて細胞内ATP量を測定する。発光量の測定はルミノメーターを用いて行う。



1: Klaus S, et al. Epigallocatechin gallate attenuates diet-induced obesity in mice by
  decreasing energy absorption and increasing fat oxidation. Int J Obes (Lond). (2005) 29,
  615-623.
2: Takatoshi M, et al. Green tea extract improves endurance capacity and increases muscle
  lipid oxidation in mice. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. (2005) 288, R708-715.
3: Lee K. Transactivation of peroxisome proliferator-activated receptor alpha by green tea
  extracts. J Vet Sci. (2004) 5, 325-330.
4: Furuyashiki T, et al. Tea catechin suppresses adipocyte differentiation accompanied by
  down-regulation of PPARgamma2 and C/EBPalpha in 3T3-L1 cells. Biosci Biotechnol
  Biochem. (2004) 68, 2353-2359.


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