つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200745
クラミドモナスの細胞内電位の測定 三枝 悠 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教員:吉村 建二郎 (筑波大学 生命環境科学研究科)
[背景と目的]
野生型の結果から、DMSOにより細胞の体積が大きくなることが明らかになった。その原因については検証を行っていないが、細胞質分裂が阻害される、液胞や小胞体による体積調整が阻害される等が考えられる。cw2ではDMSO存在下で対照群よりも大きな細胞が見られなかった理由は、細胞壁欠損により膨圧や振動に対して極端に弱くなっており、大きくなった細胞の大部分が破裂してしまったためと推測される。 gchC4では野生型やcw2よりも直径30μm以上の細胞の割合が比較的高いこと、DMSOを加える必要がないこと、cw2よりも細胞が丈夫であることから、細胞内電位の測定にはgchC4を用いた。 2. 細胞内電位の測定 通常は細胞膜直下に葉緑体があるため、細胞に電極を刺入すると葉緑体に刺さってしまう可能性が高い。そこで、葉緑体を退縮させるため、黒い箱にフラスコを移して遮光培養した。その結果、細胞体に対して葉緑体が小さくなった。この細胞を細胞壁溶解酵素で処理し、生理的塩類溶液中で、微小電極を先端が葉緑体に達しないように刺入して細胞内電位を測定した(図1)。測定時は赤色フィルターを付けて観察し、照明が刺激にならないようにした。得られた測定値は-56〜-12 mVで、そのヒストグラムを作成すると図2のようになった。この結果から、静止状態のクラミドモナスの細胞内電位は-50〜-40 mVであると考えられる。分極が-30 mVよりも小さい測定値は、1)電極の角度が浅く、刺入する際に電極を細胞表面に押し付ける形になって細胞を傷つけてしまった、2)弱った細胞の電位を測定してしまったものと考えられる。 測定した電位が細胞内電位であることを確かめるため、測定中に細胞外液のK+濃度を変化させた。電極を刺入した状態で溶液中に50〜100 mMとなるように KCl 100 μlを加えたところ、ゆっくりとした脱分極が記録された。定量的な実験はこれから行う予定であるが、一般的に細胞外K+濃度が高いほど脱分極することから、この結果は測定値が細胞内電位であることを支持していると考えられる。 [まとめと今後の展望] 本研究により、モデル生物のクラミドモナスの細胞内電位を初めて測定することができた。今後は、外液のKCl濃度変化に対する反応の定量的な測定、光刺激に対する細胞内電位の変化を記録・分析する予定である。
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