つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200748

C-1027アポタンパク質の低分子結合能の解明―高親和性変異体H104Fの機能構造解析―

佐久間 由季子(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:田中 俊之(筑波大学 生命環境科学研究科)

<序論>
 抗腫瘍性抗生物質C-1027は、非タンパク質のクロモフォアと、その担体であるアポタンパク質から構成される複合体である。C-1027アポタンパク質は、アミノ酸110残基からなる酸性タンパク質で、4つのストランドをもつ逆平行型βシートと、3つのループから形成された疎水性の高いポケットを持つ。抗腫瘍性活性の中心であるクロモフォアは、単独では非常に不安定だが、この疎水性ポケットに特異的に結合し、安定化される。クロモフォアとアポタンパク質の間の主な相互作用は、クロモフォアの疎水性の高いエンジイン骨格と、ポケットを形成するアミノ酸残基の疎水性側鎖との間の、疎水的接触である。一方、塩基性アミノ残基であるH104は、疎水性ポケットの縁に存在し、その側鎖はポケット側を向いている。H104をフェニルアラニンに置換した人工タンパク質H104Fは、クロモフォアとの結合能が野生型より約10倍強く、クロモフォアの結合・解離速度も遅い。この興味深い低分子結合能の要因を明らかにするため、野生型アポタンパク質とH104F変異体のX線結晶構造解析を行った。

<方法>
(1)野生型アポタンパク質とそのH104F変異体の調製
 当研究室ですでに確立されているプロトコールに従って、野生型とH104F変異体の大量発現と精製を行った。
(2)野生型アポタンパク質とそのH104F変異体の結晶化
 蒸気拡散ハンギングドロップ法で、野生型とH104F変異体の結晶化を行った。
(3)X線回折データの収集と解析
 X線回折データの収集は高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのビームラインBL5Aで行い、回折データの処理はHKL2000プログラムを用いた。構造の精密化にはCNSプログラムを用いた。

<結果と考察>
 野生型はLB培地1 Lあたり約6.3 r、H104F変異体はLB培地1 Lあたり約1.7 rの精製タンパク質が得られた。まず、野生型アポタンパク質を用い、種々の結晶化条件を試したところ、バッファー、塩、沈殿剤として、それぞれTris-HCl(pH8.0)、Calcium chloride、2-Methyl-2,4-pentanediolを用いた条件(温度15℃)で、針状結晶が得られた(Fig.1)。この結晶を用いて、分解能が1.95ÅのX線回折データが得られた。結晶の空間群はP31、格子定数はa=b=53.8、c=55.2であり、非対称単位中にC-1027が2分子存在していた。得られた電子密度マップをFig.2に示す。現在、より高分解能のX線回折データを得るため、野生型アポタンパク質の結晶化条件の最適化を行うとともに、H104F変異体の結晶化条件の検討を行っている。

<謝辞>
 本研究を行うにあたり、多くの御指導と御協力を頂いた東北大学 多元物質化学研究所 黒河博文博士に深く感謝致します。























 Fig.1 野生型アポタンパク質の結晶写真          Fig.2 野生型アポタンパク質の電子密度マップ


©2006 筑波大学生物学類