つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200749
細胞性粘菌における配偶子特異的遺伝子racF2のプロモーター解析佐藤 友絵(筑波大学 生物学類 4年) 指導教員:漆原 秀子 (筑波大学 生命環境科学研究科研究科)
背景と目的細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは通常単細胞アメーバの状態で二分裂による増殖を続けるが、一方で暗条件、過剰な水分の存在下では性的に成熟して相補的な交配型の細胞同士で融合し、有性生殖を行う。この過程は、細胞融合、核融合といった有性生殖の基本となる現象を含んでいること、人為的に誘導しやすいことなどの理由から、有性生殖のモデルとして位置づけられている。中でも、環境条件に応じて性的に成熟が誘導される過程は興味深く、これまでに我々の研究室では、性的に成熟して細胞融合能を持つ細胞(FC細胞)と性的に成熟していない細胞(IC細胞)での発現比(FC/IC比)の高い遺伝子がリスト化され解析されてきた。本研究では、その中でも特にFC/IC比が高いracF2のプロモーター解析を行った。方法と結果先行研究より、複数の核酸やタンパク質配列から特徴配列を抽出するプログラムであるMEMEによってFC細胞に特異的な遺伝子のプロモーター領域からの特徴配列が抽出されていた。また、レポーター遺伝子であるlacZの上流にracF2のプロモーター領域を連結したコンストラクトの作製が行われていたので、それを出発材料とした。このコンストラクトには配偶子特異的配列が複数存在しているため、まず、それらの有無による発現の比較を行った。プロモーターの5’端を一部欠失させたコンストラクトで形質転換した細胞性粘菌からタンパク質画分を抽出してONPG(o‐Nitrophenyl β-D-galactopyranoside)と反応させ、420nmの吸光度を測定して酵素活性の相対値とした。その結果、特徴配列の有無によるプロモーターの活性の有意な差はみられなかった。その原因としては、翻訳効率やタンパク質の安定性が低いために酵素活性が転写レベルを反映していない可能性が考えられたので、導入されたコンストラクト中のlacZの発現をリアルタイムPCRで解析し、ONPGを使用したlacZ活性測定の結果と比較した。リアルタイムPCRではFC細胞とIC細胞から抽出したRNAからcDNAを合成して、反応に使用した。また、内部標準遺伝子によりサンプル同士の誤差を補正した後、FC/IC比を算出した。その結果、lacZの発現についてはFC/IC比が高いにもかかわらず、酵素活性はFC細胞でもICと同程度に低いという事がわかった。また、特徴配列を欠失させるとFC細胞での発現が低下していた。使用したコンストラクトではプロモーターに続いてracF2ORFの一部が含まれており、しかもその部分にイントロンがあるため、スプライシングの不具合によってっ正常なタンパク質が合成されていなかったことも考えられる。そこで現在、intronを完全に除いたコンストラクトを作製中であり、完成後細胞性粘菌に導入し、その後、再度プロモーター領域の一部を削ったコンストラクトを導入する予定である。 考察今回解析したracF2のプロモーターには、上述の特徴配列が全部で3ヶ所存在している。この配列はracF2以外の配偶子特異的遺伝子にも高頻度で出現しており、その中には同じracファミリーであるrac1BやrasZも含まれている。これらはFC/IC比が特に高い遺伝子である。このプロモーター解析により有性生殖の初期過程における遺伝子発現制御メカニズムの一端が明らかとなることを期待している。©2006 筑波大学生物学類
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