つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200750

DNAM-1リガンドに対するモノクローナル抗体の作製と機能解析

柴田 海(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:渋谷 彰(筑波大学 人間総合科学研究科)

<背景>
 免疫システムとは自己・非自己を認識し、非自己である異物を排除することで体内の恒常性を維持する生体防御機構である。生体内には種々の免疫細胞が存在し、それらが相互に作用し合い、ひとつの免疫応答を構築している。細胞間相互作用には、細胞同士の接着による直接的な情報伝達様式や、細胞から産生される生理活性物質、サイトカインなどによる間接的な情報伝達様式がある。接着分子は細胞膜表面に存在し、細胞間接着と情報伝達に重要な役割を担っている。
 DNAM-1(CD226)は、分子量65kDaの免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子である。ヒト、マウスともにCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞など、種々の免疫細胞に発現している。DNAM-1のリガンドはCD155(PVR)とCD112(PRR2/nectin-2)の2分子である。これらの分子はポリオウイルスレセプターファミリーを形成しており、互いにまたは同じ分子同士が接着する特徴を有することから細胞間接着に関与していると考えられる。しかし、その発現、機能等の詳細は不明である。

<目的>
  DNAM-1(CD226)とDNAM-1リガンド(CD155,CD112)の、生体内免疫応答における機能を明らかにすることを最終目的として、本研究ではマウスDNAM-1リガンド(mCD155、mCD112)に対する特異的モノクローナル抗体を作製し、その発現を解析する。具体的には、mCD155に関しては、すでに当研究室にて樹立した抗mCD155モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンより抗体を精製し、その発現解析を行う。また、mCD112に関しては、まず抗mCD112モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンを樹立する。その後、ハイブリドーマクローンよりモノクローナル抗体を精製し、その発現解析を行う。

<方法>
・mCD155に対するモノクローナル抗体の精製と発現解析
  抗mCD155モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンを、マウス(BALB/cA nu/nu)に腹腔内投与し7〜10日後に腹水を採取した。その腹水からカプリル酸を用いた塩析によって抗体を精製した。抗mCD155抗体および様々な分化抗原に対する抗体にて多重染色を行い、Flow cytometry法にてmCD155の発現を解析した。

・mCD112に対するモノクローナル抗体の作製と精製
  mCD112を発現するトランスフェクタント細胞をcomplete freund’s adjuvantと共にラット足底に接種し、7日後再接種した。再接種より3日後にこのラットから膝窩リンパ節を採取しリンパ節細胞を分離した後、ミエローマ細胞と融合させ、HAT選択培地にて培養した。HAT選択培地では核酸生合成経路の違いを利用した選択により、B細胞とミエローマ細胞が融合したハイブリドーマのみが生存し、そのコロニーは10〜14日後に肉眼で観察された。このコロニーを液体培地に移し、十分に増殖するまで培養した。培養上清をFlow cytometry法にてスクリーニングし、mCD112を特異的に認識するハイブリドーマクローンのみを選択した。
 得られたハイブリドーマクローンをマウス腹腔内投与し、7〜10日後に腹水を採取した。腹水からカプリル酸を用いて塩析により抗体を精製した。

<結果>
・mCD155に対するモノクローナル抗体の精製と発現解析
  マウス4匹から34.7mlの腹水が得られ、そのうち10.6mlから24.7mgの精製抗体が得られた。
  リンパ球におけるCD155の発現解析では、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NKT細胞、樹状細胞に発現が見られた。

・mCD112に対するモノクローナル抗体の作製と精製
  抗mCD112モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンは672クローン中1クローン(陽性率0.15%)が陽性であった。
  またマウス1匹から8mlの腹水が得られ、そのうちの4mlから1.7mgの精製抗体が得られた。

<考察>
 樹状細胞は抗原提示細胞と呼ばれ、異物をエンドサイトーシスによって一度細胞内に取り込んだ後分解し、その一部を再び細胞上に抗原として提示する機能を有する。この抗原に特異的なCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞が樹状細胞に接着すると、T細胞は樹状細胞からの刺激を受け、増殖・活性化し種々の免疫反応を起こす。本実験ではCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、樹状細胞においてDNAM-1とそのリガンドが同時に発現していることが明らかになった。よってDNAM-1は免疫反応の初期段階、樹状細胞とT細胞の細胞接着による両細胞の活性化に関与していることが示唆される。

 抗mCD112モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンのスクリーニング結果は極めて低い陽性率であった。これはCD112が各動物間ゲノムでよく保存されているため、ラットとマウスにおいても分子間で相同性が高く、ラット免疫細胞がmCD112を非自己として認識しなかったことによるものと考えられる。

 今後はmCD112抗体を用いての発現解析、樹状細胞とCD4陽性T細胞の接着または樹状細胞とCD8陽性T細胞の接着時のDNAM-1の機能解析をすることで、生体内におけるDNAM-1の役割を明らかにしていく予定である。


©2006 筑波大学生物学類