つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200751

オヒシバのキンクロラックに対する耐性メカニズムの解明

白井 慎二郎 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:松本 宏 (筑波大学 生命環境科学研究科)

≪背景≫

キンクロラックは水田や芝地のイネ科雑草の防除に利用されているが、芝地のイネ科雑草の1つであるオヒシバは例外的にキンクロラックに耐性を示す。これまでの研究において、本剤に対して感受性の異なるオヒシバとヘンリーメヒシバ(感受性)を用いて、キンクロラックの吸収、移行、代謝が比較されているが、これらの差ではキンクロラックに対する感受性差は説明できないとされており、オヒシバの耐性機構の詳細は未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、本剤の作用点であるエチレン生合成経路を中心としてオヒシバとメヒシバ(感受性)におけるキンクロラックに対する反応応答の差を比較検討し、オヒシバのキンクロラックに対する耐性メカニズムを解明することを目的とした。

≪材料≫

・供試薬剤:キンクロラック(3,7-dicholro-8-quinolinecarboxylic acid)
・供試植物:オヒシバ(Eleusine indica (L.) Gaerth)
:メヒシバ(Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler)

≪実験方法≫

  1. 生物試験:水耕法により両植物を3葉期まで育てた後に、0.1、1、10μMのキンクロラックを12h根部処理し、処理後0、1、2、4、6日後の新鮮重を測定した。その後80℃で2日間乾燥した後、乾燥重を測定した。さらに0.01、0.1、1、10、100μMのキンクロラックを処理し、同様に新鮮重を測定し両植物での薬量-反応曲線を作成した。
  2. クロロフィル量測定: 0.1μMのキンクロラックを量植物に処理し、処理後48hの両植物をDMSOに2日間浸漬後、クロロフィル量を測定した。
  3. エチレン量測定:0.1μMのキンクロラックを両植物に処理し、処理後にバイアル瓶に移植し、密封した後、経時的にバイアル瓶中のエチレン量をガスクロマトグラフ(FID)にて定量した。

≪結果及び考察≫

  1. オヒシバでは新鮮重、乾燥重、ともに変化は見られなかった。メヒシバでは1μM程度のキンクロラック処理から新鮮重の減少が見られ、10μMで枯死した。
  2. オヒシバではクロロフィル量の変化はほとんど見られなかった。メヒシバではキンクロラック処理後クロロフィル量の減少が見られた。
  3. オヒシバではエチレン量の変化はほとんど見られなかった。メヒシバではキンクロラック処理後に大幅なエチレン量の増加が見られた。また両植物でのキンクロラック処理後の生育抑制の程度とエチレン発生量には、正の相関が認められた。

これらのことから、オヒシバのキンクロラック耐性にはエチレン生合成が密接に関与している可能性が示唆された。今後はエチレン生合成経路中のいずれかの段階が、キンクロラック耐性と深く関っているのか詳細に調べていく予定である。


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