つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200753

プラスチック分解酵素の進化工学的改変

菅江 理子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:中島 敏明 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【目的】
生分解性プラスチックは自然環境中で微生物によって分解され、環境負荷が少ないことから普及が進んできている。一方で、生分解性プラスチックはその多くがポリエステルであり容易にモノマー化し、リサイクルが可能である。しかし、種々のプラスチック廃棄物(混合物)の中から高純度のモノマーを取り出す点が困難であった。そこで、資源循環型社会の構築に向け、酵素の基質特異性を利用した選択的モノマー化による生分解性プラスチックのバイオケミカルリサイクルが提案されているが、その実現には各種生分解性プラスチックを効率よく分解する酵素の取得が不可欠である。Paenibacillus amylolyticus TB-13株由来のポリ乳酸分解酵素(PlaA)はエステラーゼの一種であり、ポリ乳酸(PLA 分子量20,000)をはじめ、ポリウレタンやポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)等のエステル系プラスチックを強力に分解することが明らかとなっている。しかし、一般的に用いられている高分子のポリ乳酸(分子量約130,000以上)を分解することはできない。本研究では、ポリ乳酸分解酵素遺伝子(plaA)に進化工学的改変を加えることによって生分解性プラスチックの分解活性を高めることを目的とした。

【方法】
・Error-prone PCRによる変異の導入
plaAをtemplateとしてError-prone PCRを行い、得られた配列をpUC18へ挿入し、大腸菌を用いて形質転換を行った。ベクターにはpUC18を用い、IPTGとグルコースの添加による発現調節を可能にするため、lacプロモーターの制御下におかれるようにインサートを挿入した。プラスチック分解活性の高まった株のスクリーニングにはPLA(分子量130,000)及びPBSAエマルジョンを重層したプレートを用い、プレート上で形成されるクリアゾーンの大きさにより分解活性を比較した。PlaAはPBSAエマルジョンに対してもともと分解活性を示すため、グルコースを培地に添加して発現を抑制し、クリアゾーンの形成を最小にとどめた。この状態で大きなクリアゾーンを形成するものを目的クローンとした。一方、PlaAは高分子量PLAエマルジョンを分解することはできないので、IPTGを添加した高発現状態でスクリーニングを行った。

・DNA-shufflingによる組換え
DNA-shufflingは相同性の高い数種の配列間で相同組換えをおこさせる手法である。一般的にはDNaseによる限定分解を行うが、条件設定が困難であるので宮崎(※)による新しい方法を用いた。まずPCR反応液に一定量のdUTPを加えることによって、templateのチミンをランダムにウラシルへ置換した。続いて、DNA中のウラシルから3〜4塩基下流で塩基配列を切断するendonucleaseXによりDNAを断片化した。最後にassembly反応によって相同組換えをおこさせ、PCR反応により全長の遺伝子の再構築を行った。プラスミドの構築及びスクリーニングは、Error-prone PCRによる変異の導入の場合と同様に行った。

【結果】
・Error-prone PCR
得られたコロニーのうち14コロニーについて塩基配列を決定したところ、変異が導入される確率は0.2〜0.3%であった。スクリーニングの結果、PLAエマルジョンを分解するものは得られなかったが、PBSAエマルジョンの分解能が高まったものが6株得られた。

・DNA-shuffling
DNA-shuffling によって組換えが起きることを確かめるために、まずplaAと相同性が高く、既に塩基配列が明らかとなっているplaA1, plaA2を用いて、plaAとのDNA-shufflingを行った。遺伝子全長が再構築されたことをアガロースゲル電気泳動法により確認し、その塩基配列を決定して組換えが起こっていることを確かめた。次に、plaAにおける塩基配列の多様性を高めスクリーニングを行う範囲を広げるために、plaAをtemplateとしたError-prone PCR産物を用いてDNA-shufflingを行った。その結果、PLAエマルジョンを分解するものは得られなかったが、PBSAエマルジョンの分解能が高まったものを12株得ることができた。

【今後の予定】
生分解性プラスチック分解活性の高まった酵素遺伝子の塩基配列を決定し、それに基づいたさらなる改変を行っていく予定である。

(※)K. Miyazaki (2002) Random DNA fragmentation with endonuclease X: application to DNA shuffling. Nucleic Acid. Res., 30, e139


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