つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200757

フナムシの心臓拍動に対するアミン類の効果

鷹田 有紀 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:山岸 宏 (筑波大学 生命環境科学研究科)

目的
 自動性を持つ動物の心臓は、神経性やホルモン性の調節機構によって調節されている。神経原性である甲殻類の心臓においても、その拍動が中枢神経系からの調節神経やホルモン分泌神経の調節を受けており、特に十脚類において、神経分泌器官である囲心腔器官から放出されるアミン類やペプチド類が心臓拍動調整に関与していることが報告されている。一方、各種アミン類の心臓拍動に対する変時性効果が十脚類と等脚類とで異なっていることが報告されている。そこで等脚類のフナムシな心臓拍動に対する各種アミン類の変時性効果を調べて、他の種類における結果と比較・検討した。

材料・方法
 実験材料として、千葉県天津小湊町で採集したフナムシ(Ligia exotica )の成体(体長約3〜3.5cm)を雌雄の別なく使用した。実験には、腹甲と心臓以外の内臓および頭部を除去して、背甲に付着した状態の半摘出心臓標本を用いた。腹側を上にしてチェンバーに固定し、心臓末端を吸引電極で吸引することによって細胞外電位(心電図)を記録した。更に、そのシグナルを心拍カウンターに接続し、心臓の拍動数を計測した。標本は常に生理的塩類溶液で灌流し、適宜、薬物を含んだ生理的塩類溶液に交換し、1分間灌流することでその効果を調べた。試薬にはセロトニン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、オクトパミンを用い、10-9〜10-3Mの各溶液を低濃度から高濃度へ順次投与した。

結果
セロトニン、ドーパミン、オクトパミンおよびエピネフリンはいずれも、フナムシの心臓拍動に対して正の変時性効果を示した。ノルエピネフリンについては未だ明確な結果が得られないが、更に実験を追加してその効果を明らかにする予定である。

考察
 ノルエピネフリンを除く4種のアミン類は、フナムシの心臓拍動に対していずれも正の変時性効果を示した。同じ等脚類のオオグソクムシでは、エピネフリンおよびドーパミンが負の変時性効果を示すことが報告されている。アミン類の心臓拍動に対する効果が系統的に近いものでも種によって異なる可能性が示唆された。


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