つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200762

プラスチックの生分解性と表層微生物叢

土屋 未来 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:中島 敏明(筑波大学 生命環境科学研究科)

[目的]
現在、プラスチックはその軽さ・加工の容易性・安価という特徴から、私たちの生活に広く普及しているが、そのプラスチックの処理によって問題を引き起こしていることも事実である。生分解性プラスチックは、使用後は自然環境中の微生物によって水と二酸化炭素に完全分解される点で注目を浴びている。しかし、実際の自然界において生分解性プラスチックがどのような微生物によって分解をうけるのか、そしてその分解過程についてはほとんど知られていない。当研究室において、これまでに土壌に埋設した生分解性プラスチックの表層における微生物叢の解析から、分解初期に微生物叢の大きな変化が見られることを見出した。本研究では、生分解性プラスチックと生分解性でない一般のプラスチックとを用いて表層微生物叢と分解の関係を調べることを目的とした。

[方法]
生分解性プラスチック5種(ポリブチレンサクシネート(PBS),ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA),ポリエチレンサクシネート(PES),ポリ乳酸(PLA),ポリカプロラクトン(PCL))と一般のプラスチック2種(ポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート(PET))とを重量約0.2gのディスク状に加工して、土壌に埋設した。埋設後は一定期間ごとに土壌からプラスチック片を引き抜き、余分な土壌を取り除いたあとに、それを懸濁した希釈液をNutrient-Broth(NB)平板培地に塗布する平板法で生菌数の測定を行った。
同時にプラスチックの表層からFastDNASpinKit for soil を用いてtotalDNAを抽出し、一度16S rDNAの全長を増幅できるプライマーセット(27F-1424R)を用いてPCRを行った後、細菌種の多様性が現れるという16S rDNAのループ構造のひとつであるV3領域をGCクランプ付きのプライマーセット(357F-GCと518R)を用いて特異的に増幅した。このPCR産物を一定濃度まで濃縮したサンプルでDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)を行い、得られたバンドパターンの画像をImage Master(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて解析し、各バンドパターンの泳動距離と輝度を数値化、その後解析ソフトPirouette3.10(Infometrix Inc.)を用いて主成分分析を行うことでバンドパターンの変化を視覚化し、土壌に埋設したプラスチックの表層での微生物群集構造の多様性解析を試みた。

[結果および結果]
下のグラフに示すように、生分解性プラスチックと生分解性でない一般のものとでは埋設後初期(20-30日頃)からすでに生菌数に10-100倍近くの差が見られた。PLAは生分解性プラスチックの一種ではあるが、環境中における分解性は他の生分解性のものと比べると低く、プラスチック表層に存在する生菌数のグラフがPPやPETのものに近いことから、PLAには微生物叢が形成されにくいことが示唆される。埋設実験終了時(埋設後70日)には、生菌数はPBS,PBSA,PCL,PESの生分解性の高いプラスチックと、PLA,PP,PETの生分解性の低いもしくは非生分解性のプラスチック、という二つのグループに集約してきている。またDGGEバンドパターンの解析によってプラスチック表層での微生物叢の経時的な変化も確認できた。



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