つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200775

脂肪細胞におけるサーチュインの機能解析

馬場 景星 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:坂本 和一 (筑波大学 生命環境科学研究科)


【背景・目的】
 サーチュイン(Sirtuin)はNAD+依存性脱アセチル化酵素ファミリーの総称であり、中でも過剰発現により個体の寿命延長効果を示すSIRT1が近年注目を浴びている。またサーチュインは寿命のみならず、アポトーシスや細胞周期などにも大きな影響を及ぼすことが知られている。
 アセチル基はリン酸基、メチル基と並んで修飾による生体分子の構造変化の代表格であり、p53やFOXOファミリーなどを始め様々なタンパク質がサーチュインによる調節を受けているが、どのようなメカニズムでそれらの現象を引き起こしているかについては、まだ分かっていない部分が多い。
 一方、インシュリンは糖吸収や脂肪前駆細胞が脂肪細胞に分化する際に作用する重要な分子であるが、古くから寿命延長効果を示すカロリー制限とインシュリンの存在量とは負の相関を示す。またインシュリンとSIRT1も同様に、負の相関を示すことが分かっている。
 そこで本研究は、マウスの白色脂肪細胞の前駆細胞3T3-L1を用いて、主に3T3-L1の分化に対するSIRT1の生理作用を明らかにすることを目的とした。

【方法】
1.SIRT1のRNAiベクターの構築
 RNAi用のベクターであるpSilencerにSIRT1由来の19ntを含むRNAi用配列を制限酵素処理及びligationによって挿入し、それを大腸菌にトランスフェクションし、コロニーPCRやDNAシーケンサーによる解析で確認を行った後、MidiPrepによってプラスミドを精製した。
2.pSilencer-SIRT1のRNAi効率の確認
 HeLa細胞にpSilencer-SIRT1をトランスフェクションし、RT-PCR及びWestern法を用いてRNAi効率を確かめた。
3.SIRT1 RNAiアデノウイルスベクターの構築
 3T3-L1細胞に対する高い遺伝子導入効果を得るために、アデノウイルスベクターのコスミドベクターにpSilencer-SIRT1を組み込むことを試みた。
4.WTを用いた分化実験(コントロール)
 3T3-L1をコンフルエントになるまで培養し、インシュリン、dexamethasone(dex)、isobutyl-methylxanthine(IBMX)を添加して分化を誘導し、RT-PCRによってSIRT1発現量の経時的変化を確認した。また、OilRedO染色によって分化誘導効率を調べた。

【結果・考察】
1.SIRT1のRNAiベクターの構築
 塩基配列の解析により、正しく目的配列が挿入されたベクターが2つ構築できたことが確認された。そのうちMidiPrepで純度が高かった方を以後の実験で用いることにした。
2.pSilencer-SIRT1のRNAi効率の確認
 RNAiによりSIRT1の発現の抑制がみられたが、データが不鮮明で試行回数も少ないため、さらに実験を重ねる必要がある。
3.SIRT1 RNAiアデノウイルスベクターの構築
 現在ベクターの構築を行っている。コスミドベクターもインサート(pSilencer-SIRT1)もDNA長が非常に大きく、制限酵素切断面が平滑末端であるため、ligationの効率が著しく低いと考えられる。
4.WTを用いた分化実験(コントロール)
 現在PCRの内部標準を調整している段階である。

【今後の課題】
結局ベクター構築に手間取って当初予定していた実験を行うことができなかった。ともかく一刻も早くベクターを構築することが肝要である。またRNAiだけでなくover expression用のベクターも作製予定である。


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