つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200776

ツバメの営巣場所決定に影響を与える要因

阪野 弘典 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:徳永 幸彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

はじめに
 営巣場所の違いは、繁殖成功に大きな影響を及ぼすことが多い。したがって、様々なレベル(area, habitat, site, microsite, nest)における営巣場所選択をどのように行うかは、動物にとって非常に重要な意味をもつ。営巣場所の選択は、環境の質を規定する全ての要因を評価して行うことが最も好ましい。しかし、環境の質を規定する要因は、動物が処理できる情報としては過多であり、またそれらが複雑に相互作用しているため、環境の質を直接評価して営巣場所の選択を行うことは困難である。そのため動物は、環境の質を間接的に評価する何らかの手がかりを用いて、各レベルの営巣場所選択を行っていると考えられる。
 ツバメ(Hirundo rustica )は、人工構造物に営巣する渡り鳥で、しばしば古巣を再利用して繁殖を行う。状態の良い古巣を用いて繁殖を行うことは、造巣に費されるエネルギーおよび時間の節約につながると考えられている。これまで多くのツバメの研究では、建築物をsiteの単位として扱い、解析が行われてきた。その結果、成鳥は毎年同じsiteに渡来して繁殖を行う傾向が強く、繁殖を経験したことのない若鳥は、古巣の数をもとにsiteの選択を行っていることが示唆されている。
 一方、ツバメは数メートル四方の繁殖なわばりを形成すると言われており、建築物内の数メートル四方の空間をmicrositeと考えることができる。ツバメのmicrosite選択に関しては、site選択と同じルールに従って行われているのではないかと推測はされている(Shields 1988)ものの、microsite選択に焦点を当てた実証研究はまだ行われていない。micrositeにおける古巣の数が多ければ、状態の良い古巣を利用できる可能性も高まるため、古巣の数はmicrosite選択の手がかりとなり得る情報である。そこで本研究においては、筑波大学構内におけるツバメの営巣状況を観察することで、ツバメのmicrosite選択は古巣の数をもとに行われている、という予測の検証を試みた。

方法
 繁殖シーズン(およそ3月から8月)の開始前に筑波大学構内に存在する古巣の位置と状態を記録した。繁殖シーズンの間、大学構内の全ての建物を1日おきに回り、営巣状況を調査した。繁殖活動の確認された巣について、抱卵開始日、巣立ち雛数、繁殖成功を記録した。2001、2003年に行われた先行研究のデータも用いて、micrositeあたりの古巣と1回目の繁殖の関係について解析を行った。

結果と考察
 古巣の数が多いmicrositeほど、1回目の繁殖で使用される割合が高い傾向があった。また、営巣の行われたmicrositeの古巣の数と抱卵開始日の間には、負の相関が見られた。このことは、古巣の数の多いmicrositeほど、早い時期になわばり形成が行われる可能性を示唆している。 以上のことから、ツバメのmicrosite選択は、古巣の数をもとに行われている可能性があると言える。

 


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