つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200779

ホトケドジョウ類の系統と保護

堀田 耕平 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:沼田 治 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景・目的】

 ホトケドジョウ類は、コイ目タニノボリ科フクドジョウ亜科に属する冷水性の淡水魚であり、現在までにヒメドジョウ、エゾホトケドジョウ、ホトケドジョウの3種が記載されている。ホトケドジョウは日本固有種であり本州と四国に広く分布し、湧水や細流など低温な水環境に生息している。以前から、ホトケドジョウは形態学的に大きな種内変異をもつことが知られていた。最近の形態学的、生態学的な研究から、ホトケドジョウは2つのグループに分けられることが示され、本州の岡山県から和歌山県、四国の東部、それらと少し離れて愛知県、静岡県に分布するグループが、未記載種として分けられ、「ナガレホトケドジョウ」という和名を与えられた。
 当研究室の先行研究では、2次元ゲル電気泳動を用いたタンパク質分析や、ミトコンドリアDNAのD-loop領域の塩基配列の解析によって、ホトケドジョウとナガレホトケドジョウが互いに遺伝的に明確に区別され、それぞれが別種に相当することが示唆された。さらに、ホトケドジョウは東北・北陸・北関東・南関東・東海・近畿の6つの地域集団に、ナガレホトケドジョウは紀伊-四国・山陽2つの地域集団に分けられ、それぞれが単系統群を形成した。これら種内集団の分布の境界は、山脈などの地理的な障壁によって分け隔てられており、分子時計から推定される種内集団の分岐年代と、氷河期と間氷期のサイクルや山脈形成などの地史学的なイベントが起こった時代に一致が見られた。他方で、ミトコンドリアDNAを用いた系統解析において、愛知県と静岡県に隔離分布する東海産ナガレホトケドジョウの集団が、ホトケドジョウのクレードの中に入り、形態的な解析によって得られた系統とミトコンドリアDNAを用いた分子系統との間で矛盾が生じている。
 ホトケドジョウとナガレホトケドジョウは、環境庁が作成したレッドデータブックにより絶滅危惧IB類のカテゴリーに指定されている。ホトケドジョウの生息地は人間の生活圏と重複するため、環境悪化や消滅により減少し続け、また強く分断されている。
 本研究の目的は、ホトケドジョウ類の系統解析をすることで、種内集団の構造や東海産ナガレホトケドジョウの位置付けを解明し、またその保護に役立てることにある。

【方法】

1) ミトコンドリアDNAのD-loop領域の配列を用いた系統解析
ホトケドジョウ類から組織片を切り出して溶解し、PCR法によりミトコンドリアDNAのD-loop領域の配列を増幅させた後に、ダイレクトシークエンシングによって1kbp余りの領域の塩基配列を決定した。これより欠失を除いた配列の種間および種内での比較から遺伝的距離を求め、系統樹を作成した。

2) RAPD(DNAの増幅断片多型)による系統解析
10塩基程度の短いプライマーを数種用いて、PCR法によりプライマーに挟まれた塩基配列を局所的に増幅させた。産物をアガロースゲルで電気泳動したのち、エチジウムブロマイドで染色し、そのバンドパターンから類縁関係を推測した。


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