つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200782

ウーロン茶高分子ポリフェノールのATP生産量上昇作用に関する研究

松原 吉孝 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:沼田 治(筑波大学 生命環境科学研究科)

【目的】
 ウーロン茶には様々な効能があると言われている。抗酸化作用、抗肥満作用、抗癌作用、血圧上昇抑制作用など多くの報告があるが、ウーロン茶がもたらす効能の1つに呼気中の二酸化炭素量の増加がある。本研究室では、呼気中の二酸化炭素量の増加はミトコンドリアの活性化を示唆すると考え、細胞レベルでの研究を行なってきた。その結果、繊毛虫Tetrahymenaとマウス精子を用いて、ウーロン茶に含有される高分子ポリフェノールがミトコンドリアの膜電位の上昇をもたらし、遊泳速度も上昇させるということを明らかにした。私はウーロン茶高分子ポリフェノールによるミトコンドリア膜電位の上昇はATP生産量を上昇させ、遊泳速度を上昇させる、という仮説を立て、ウーロン茶高分子ポリフェノールがATP生産量を上昇させるかどうかを解明することを本研究の目的とした。まず初めにテトラヒメナにおけるATP生産量を測定する方法を確立した。その方法により、ウーロン茶高分子ポリフェノールと低分子ポリフェノール6種類、カフェインのATP生産量上昇作用の有無及び程度を調べた。
【試料と方法】
 ウーロン茶は高分子ポリフェノールのほかに、カフェインや様々な低分子ポリフェノールを含む。今回使用した試料は、ウーロン茶高分子ポリフェノール、低分子ポリフェノール類、カフェイン(1.36)である。低分子ポリフェノールは、エピガロカテキンガレート(12.15)・ガロカテキンガレート(11.02)・カテキンガレート(12.73)・エピガロカテキン(3.52)・エピカテキン(1.68)・ガロカテキン(0.17)の6種類を用いた。これらの試料を用い、ATP生産量上昇作用の測定方法の確立及び測定を行った。括弧内の数字はコントロールを1とした場合の膜電位上昇の比を表している。今回の実験で用いたウーロン茶高分子ポリフェノールは、ウーロン茶より所定の方法で小澤哲男先生が精製したサンプルを頂いた。測定方法は以下である。
 上述のウーロン茶高分子ポリフェノールと低分子ポリフェノール6種類、カフェインをそれぞれ5%DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶かし、1mg/mlのサンプルを調整した。テトラヒメナを含む各PYD培地2.7ml(1×104 cells/ml)に各サンプル0.3mlを加え、サンプルの終濃度を0.1mg/mlとした。このテトラヒメナを室温(25℃)で振とうし、12時間培養した。その後、このテトラヒメナを含む各培地において細胞数を5×102 cells/mlにそろえた。それを白色の96ウェルマイクロプレートに100μl/wellずつ分注し、そこにATP測定試薬(CellTiter-Glo Reagent, Promega社製)を100μl/wellずつ添加した。この試薬は細胞内のATPを溶出させ、ATP存在下で発光する。また、その発光量はATP濃度に正比例する。つまり、テトラヒメナのATP生産量が多いほど、その発光量は大きくなる。各サンプルを添加したテトラヒメナがもたらす発光量を発光測定器により測定した。サンプルの溶媒であるDMSOのみを加えたテトラヒメナがもたらす発光量をコントロールとし、各サンプルを加えたテトラヒメナの発光量と比較した。
【結果】
 低分子ポリフェノール類、カフェインがもたらすミトコンドリア膜電位上昇率とATP生産量の上昇の間には相関があった。低分子ポリフェノール及びカフェイン計7種類の試料のうち、膜電位上昇作用のコントロール比が高い3種類、エピガロカテキンガレート・ガロカテキンガレート・カテキンガレートに関しては、コントロール比で約1.5倍〜2倍の発光量を示した。また、膜電位上昇作用のコントロール比が低い3種類、エピカテキン・ガロカテキン・カフェインに関しては、コントロール比で約0.9〜1.1倍の発光量を示した。7種類の中間の膜電位上昇作用を持つエピガロカテキンは、コントロール比でおよそ1.2〜1.4倍の発光量を示した。ウーロン茶高分子ポリフェノールに関しては現在検討中である。
【考察】
 低分子ポリフェノール類がもたらすミトコンドリア膜電位上昇率と発光量には相関があるという今回の結果から、ミトコンドリア膜電位を上昇させる効果をもつ低分子ポリフェノール類は、その効果に応じてATP生産量を上昇させる効果を持つことが分かる。ウーロン茶高分子ポリフェノール類は低分子ポリフェノール6種よりもミトコンドリア膜電位を上昇させるので、ATP生産量をより上昇させ、大量に生産されたATPがテトラヒメナやマウス精子の遊泳速度を上昇させているという可能性を強く支持する。
 今後、各サンプルについてさらに実験を重ね、それぞれの発光量のコントロール比をより詳細に割り出していく。そして、ウーロン茶高分子ポリフェノールを用いてそのATP生産量上昇作用を測定し、上述の仮説が真実であることを裏付けたいと考えている。


©2006 筑波大学生物学類