つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200601200200792

シラサギ類の集団塒の動態

山口 拓男 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:徳永 幸彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

(背景と目的)
 シラサギ類は繁殖期には集団繁殖のためのコロニーを、非繁殖期には夜間に多数の個体が集まる集団塒を形成する。こうしたコロニーと塒は多くの場合、異なった場所に形成される。また塒の個体数は地域ごとで大きく異なるようにみえる。これらの現象はどのように説明できるだろうか。
塒とコロニーの間の移動に影響を与えている要因としては周辺の採餌環境、天敵からの防御、育雛に適した植生などが考えられている。こうしたいくつかの要因のなかでも、採餌環境はとりわけ重要であると考えられる。春から初夏にかけては水田に水が張られ、シラサギ類の繁殖期には、水田が有用な餌場のひとつとして機能していると考えられる。しかし、その他の期間においては水田から水がぬかれ、餌場としての機能が大きく低下することが考えられる。よってシラサギ類は餌資源の分布に応じて、塒からコロニーへ、またコロニーから塒へと移動しているのかもしれない。
また、塒が形成されている時期に、餌資源が乏しくなる冬季も含まれていることから、周辺の採餌環境の変化が地域間でばらついていることが、塒の個体数の違いを生み出しているのかもしれない。
そこで本研究では、シラサギ類の5つの塒の動態および、周辺の採餌環境の調査を行った。このデータに基づき、
・コロニーと塒の間の移動が、季節変動の大きい餌資源の分布によるものではないか。
・周辺の採餌環境の変化のばらつきが塒の個体数の違いを生んでいるのではないか。
という2つの仮説の検証を試みた。

(材料と方法)
 茨城県南部を調査範囲とし、そこで観察されるコサギ(Egretta. garzetta)、ダイサギ(E. alba)、チュウサギ(E. intermedia)、アマサギ(Bubulcus ibis)の4種のシラサギ類を対象とした。これら4種のシラサギ類は、繁殖期に集団繁殖のためのコロニーを形成する。非繁殖期となる冬季には、4種のシラサギ類のうちダイサギ、コサギのみが観察され、集団塒を形成する。今回は、以前から発見されていた5カ所の塒を対象とし、早朝、もしくは日の入り時に集合している時の個体数を調査した。調査は2004年12月から1年に渡り、1週間〜2週間半の間隔で定期的に行った。シラサギ類は、種によっても若干異なるものの、主に浅い水辺とその周辺を採餌環境として利用している。調査域内では主に田、ハス田、河川といった土地の利用形態がシラサギ類の採餌環境となっている。この採餌環境を評価するために、GISを用い、塒とコロニーの周辺の水田、ハス田、河川の面積をそれぞれ求めた。こうして得られたデータから、塒の個体数と周辺採餌環境面積の変化との関係、塒とコロニーの周辺採餌環境の面積の変化との比較について解析を行った。

(結果と考察)
 集団塒の個体数と周辺採餌環境の関係を調べたところ、繁殖期をのぞき、1年を通じてハス田の面積と塒の個体数に有意な正の相関が見られた。逆に、水田ではハス田でみられたような相関は見られなかった。これは、ハス田が水田と異なり、1年を通じて水が張られている状態にあり、それにより餌となる多くの生物が常に存在しているため、年間を通じて餌場として利用されているためであると考えられる。
 塒とコロニーの周辺採餌環境の面積の比較の結果、有意な差は見られなかった。このことから塒からコロニー、もしくはコロニーから塒へとシラサギ類が集合する場所が移動するのは、採餌環境以外による影響が大きいからかもしれない。ただ、冬季には夏季よりも餌が乏しくなることや、冬季の個体数が減少することからも、採餌環境が影響を与えていることは十分に考えられる。今回有意な差が検出できなかった原因として、本研究では単純に面積のみを用いたが、同じ土地の利用形態であっても、場所により餌場としての価値が異なる可能性も十分考えられる。そこで今後は、土地の利用形態とその面積だけではない評価の方法を考えていく必要がある。


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