つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200611YI.

ホームカミングデーと学類・学類生への提言

井出 庸一(埼玉県立春日部東高等学校 教諭)

 わたしは昭和61年3月に学類を卒業し、現在埼玉県の公立高校に勤務する者です。進学校ですが、入学時には県内上位30番目くらいのランクという微妙な位置にあります。しかし生徒たちが頑張るので、大学合格実績だと20番以内に入ります。今年度は3年生国立理系クラスの担任です。まずは1名、筑波大学の生物資源学類ですが、合格を戴きました。只今大学センター試験直前で、自分自身の受験時よりも入れ込んでいる次第です。

 さて、卒業後20年を越え、昨秋(2006年10月8日)ホームカミングデーに招待をいただき、同期の農林学類卒の妻、高校2年と小学4年の息子とともに、学園祭只中の筑波大に伺うこととなりました。松美池の端では所属していた鹿島神流が演舞を、大学会館内では妻の所属した焼き物をつくる会が販売を行っていて、それぞれが懐かしい思いをしました。大学構内には、新しく瀟洒な建物ができ、またきれいに改装の施されたものも目を引きました。一方、20年以上の時を経たためか、「ペデ」などが随分と割れたり剥がれたりしたままの姿であったのは残念でした。自動車のみで移動される方には気づかれないのかもしれませんが、学内を毎日徒歩や自転車で移動する在学生や、4月からの新入生には、否応なく目に付くのではないかと思います。彼らの心の平静のためにも、しっかりとした補修を望みたいものです。しかし、これはまだ提言ではありません。

 大学会館研修室での懇談会では、大学の先生方とわたしたち卒業生との懇談会が開かれました。正確な表題は失念してしまいましたが、「筑波大学の明日への提言」というようなテーマでした。先生方の顔触れは、当然ながら大きく在学当時とは変わっていました。卒業生側からの発言、意見、提言といったものを、丁寧に聞いてお答えくださいました。妻もこの場で述べさせていただくことができ、感謝しております。

 次いで、大学会館プラザにて懇親会となりました。佐藤忍先生をはじめ、多くの先生方、卒業生等とお話して、愉しい時間を過ごすことができました。農林学類OBの数に比べると、わが学類は他に福田君だけという寂しさがありましたが、スポーツマンでもある彼は、筑波学園を歩き、走り、体感しに来た、という元気な様子でした。なお、後日に筑波大学HP中の「ホームカミングデーの開催」を見たところ、懇親会の様子の写真の中に、厚かましくもそれぞれが食べ物を貰っている、うちの一家4人を発見しました。

 懇親会の後、大学周辺のバスツアーに参加し、同期の先生方にガイドをしていただきました。最近の学生生活を身近に感じることができました。



 実のところを白状しますと、「つくば生物ジャーナル」の存在を知ったのはごく最近のことでした。本稿の依頼を頂戴し、〆切り間際に書く寸前となって、ようやく初めてパソコン上で実物を知ったという次第です。こんな素敵なものがあったのを知らずにいたのは勿体なかったです。バックナンバーの掲載内容とも併せ、学類の学生さんと生物学類に向けて、提言めいたものをさせていただくことにします。

 どちらかというと、学生さんにとってはうるさく思えるかもしれませんが、ご容赦ください。口幅ったいことになりますが、大学側にいらっしゃる方からはかえって言いづらいかもしれないことを、中立な立場の社会人から申し上げたいと思います。

 まず前提として、学生の皆さんが勉強することにはいかなる意味があるのかということです。掲載内容から、わたしは授業評価システムというものが存在し、実行されていることを知りました。かつてはない実践で、すばらしいことだと思いました。そして、それを目にしたことから、皆さんがどのように授業に臨み受講し勉強しておられるのかとの思いを持つこととなったものです。(この3点は、同一のものではありません)

 皆さんが講義を受けるということは、お金を払って演劇や演奏を観たり聴いたりするのとは違います。よく「勉強するのは自分のため」ということがいわれます。もちろん活動の主体は「自分」なのだから、このことに大きな誤りはありません。しかし、皆さんの勉強は、単に「個人のため」にとどまるものではありません。研究、学問の入り口に当たる講義の内容を掴み取るということは、社会への参加をすることともいえますし、社会への寄与、貢献の入り口に立つことであるとも思います。皆さんが支払った授業料等のお金で、大学教育にかかる経費をすべてまかなえてはいないことはご承知でしょう。誰かが支払ってくれているのです。すなわち、社会に支えてもらっているのです。このことを前提にし、その上で3つの提言をしたいと思います。

 まず一つ目は、授業評価というものを、まさに「自分のもの」と捉えてしっかりおこなって欲しいのです。先生方がこれを実施し、コメントもつけてくださるのは、双方向的に授業をよくしようという意図をお持ちだからこそのことです。限りある時間を割き、ご多忙な中でも実践してくださっているのです。然るに、平成18年度1学期の授業評価アンケートの平均回答率が16%というのは、先生方の誠意にお答えしている数字といえるのでしょうか。履修者の数%という科目も多いですし、最高でも生態学臨海実習の41%です。これでも、施設実習にしては、高い数値とは感じられません。果たして学生の皆さんが双方向的に努力しているといってよいのか、疑問であります。「自分も授業を作っているのだ」という使命感を持って欲しいと思います。

 二つ目は、勉強したことを体系化し、そのことによって、やはり「自分のもの」とすることです。結局は「自分」に帰ってくることになります。

 どういう方法で行うか、具体的に挙げたいと思います。アンケート中の自由記述形式の回答を興味深く読みました。「この学生は、よい勉強して本質を捉えているなあ」「これだけの意見は、余程本気で勉強していないと書けないなあ」と感心したものから、「ちょっとこれは甘えが過ぎるなあ」というものまで、短い回答の中にもいろいろなレベルのものを感じました。回答率が前述の通りなので、受講者の全体像とはいえませんが、勉強を体系化する仕事を「自分から」していく必要性を感じました。講義などから得られた情報と、それらを体系化する作業は、自分の勉強で埋めていかなければならないのだろうな、と。

 目指すべきレベルの目安は次のように考えます。通年または学期の該当授業で得たものについて、細部はともかく、ストーリーテリングが可能か。すなわち、一続きのテーマを持った話が展開するかのように、その講義などで得たものについて語ることができるだろうか、ということです。免疫生物学ではこう、寄生生物学では、というふうに。バラバラの知識はたくさん貰ったけれど、どうも整理がつかない、基本的なレベルでは話がつながらない、ということも多くありえるかと思います。お勧めのひとつは放送大学の利用です。テキストだけでも充実しています。テキストで調べて該当回の放送を選んで受講するのも良いでしょう。こうしてどっしりとした概論を獲得した上で、各論、先端的内容も上乗せしていけるでしょう。

 三つ目、これは特に妻が自身の実感から話すことですが、研究や学問の世界で根を下ろすためには、人とのつながりが重要であります。それを断って、孤軍奮闘するのも限界があり、徒手空拳となりやすいのです。ホームカミングデー当日お会いした、大学でご活躍中の先生方には、みなその強みが感じられたといいます。どうぞ、大事な人とのつながりを切ることなく、共に伸びていってください。

 最後に学類に向けてですが、項目は共通して申し上げます。前述のアンケートですが、回答させるための多少の拘束力も必要かもしれません。システム上の制約もありましょうが、講義の終講時に質問紙法でもよしとして回答させることはできないでしょうか。高校でも近年授業評価は一般化してまいりましたが、一定時間とって生徒に書かせたり、カードマークをさせたりしています。講義については、四半世紀前とは随分様変わりしているでしょうから、現在のものについては申し上げられません。わたしの在学中に感じたことは、総論が弱く、各論が煩瑣だったということです。人とのつながりについては、基本的には学生個々が意識して保つべきものですが、たとえば今回のホームカミングデーでも「良きつながり」を再認識することができました。学生の在学中に、たとえば研究の世界の「良き人」と触れる機会がより得られるようになれば幸いです。
 明日の筑波物学類を心強く楽しみにしております。


筑波大学ホームカミングデーの懇親会
大学会館プラザにて

Communicated by Shinobu Satoh, Received January 12, 2007.

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