つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200603SS.

特集:卒業

出会いを宝として挑戦を続けよう

佐藤  忍(筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 皆さんご卒業おめでとうございます。今日ここに、80名の皆さんに卒業証書をお渡しすることができて大変嬉しく思います。

 英語では、卒業のことをgraduation、大学生のことをundergraduateと呼びます。つまり、「卒業前の人」ということです。日本では、入学試験を突破して大学に入れば大学生として評価されますが、海外では、卒業して初めて評価されるということを表しているわけです。皆さんは、本学類のプログラムを無事終了したわけですので、そのことを大いに誇りに思っていただきたいと思います。がしかし、この卒業は、長い人生のほんの始まりに過ぎないことを心に刻んでください。本学で得た様々な出会いを糧に、これから皆さん各人のキャリアをどのように積んでいくのか、そのことこそが重要なのです。そこで今日私は、皆さんに、これから心に留めていっていただきたいことを3点述べさせていただきたいと思います。

 第一は、皆さんが、生物学類の4年間において自ら行ってきたこと、経験してきたことを大切にして欲しいということです。高校生までは決められたプログラムに乗っていれば良かったわけですが、大学では、さまざまな選択が皆さんに課せられてきたはずです。どの授業をとるのかに始まり、どの主専攻、コースを選ぶのか、生物学演習、卒業研究の研究室をどう選ぶのか、皆さんはそれらの人生を左右する決定を積み重ねて今日に至っているわけです。マンチェスター大学への留学を果たした人、教員免許や学芸員資格を取得した人たちもいます。また、今年は本学類初めて2名の学生が3年で早期卒業を果たしました。このようなまとまった形にならなくても各人の目標を持って勉学や様々な活動を積み重ねてきた学生も多いことと思います。それらは全て自らの責任による選択と努力の結果です。その結果が満足な人もいれば不本意だったと思っている人もいると思います。たとえ振り返ってみて満足がいかない結果だとしても、それらの失敗体験は、自らの責任で選んできたことだからこそ、これからの人生の大きな糧になります。本学類4年間の経験をせひ貴重なものとして今後に生かしていっていただきたいと思います。

 第二には、人との出会いを大切にして欲しいということです。大学に入学してきてまで担任がいることに驚いた人も多かったと思いますが、本学類において担任に始まり様々な個性あふれる50名以上の教員達に皆さんは出会ってきました。生涯の師と呼べる教員と出会えた人もいると思います。それらの教員達には良いところも悪いところもあったと思います。限られた時間と空間の中での貴重な出会いです。ぜひ自らの人間性を高める上で役立てていってください。また、もっと大切なのは友人との出会いです。皆さんは貴重な青春時代の4年間をこの生物学類で過ごしてきました。社会に出てからも多くの人と出会いますが、大学においてお互いに本性をさらけ出してつきあってきた心を許せる大学の友人は一生の宝です。連絡を絶やすことなく大切にしていってください。

 最後に、最も大切な点ですが、これから、常に高い志、目標を掲げ、物事に挑戦していっていただきたいということです。実業界や産業界にすすむ人はぜひ社長を目指してください。大学院にすすむ人が多いと思いますが、そのような人はぜひ良い研究をして一流の大学や研究所の教員となって研究・教育に従事することを目指してください。筑波大学生物学類を卒業された皆さんにはその能力と可能性が十分備わっています。しかし、自分の可能性を見切ってしまい、挑戦する心を忘れてしまっている学生が多すぎると思います。釣りに例えれば、まず大魚を釣ろうと狙わなければ始まらないということです。そして次には、大魚の居そうな場所に糸を垂れることです。もしあなたがNatureやScienceに論文を書こうと思うならば、始めから人のやっていない大きなテーマに取り組まなければなりません。それは結果の予想しにくい、リスクの高い研究に違いありません。安全な道ばかりを選んでいたのでは大きな事を成すことができないということはどんな道でも共通です。そして、それを成功に導くためには、入念な準備と不断の努力が必要です。釣りに例えれば、太い釣り針と糸を用意し、特別な餌をつけ、慎重にポイントを見計らって仕掛けを設定することが必要です。一方、何事にも運は必要です。しかし、「幸運は入念な準備をした人間のみに訪れる」ことを忘れてはなりません。このことはスポーツであろうと研究であろうと全てに共通です。

 皆さんは今日この筑波大学生物学類を卒業されました。まさに今日こそは新たな人生の始まりです。各人なりの高い目標を掲げ、挑戦を開始してください。そして皆さんの後輩達があこがれ、目標とするような活躍をしてください。皆さんにはその資格が十分備わっています。後に残る私達教員と在学生は皆さんの挑戦にエールを送り続けます。80人の未来に幸あれ!

Contributed by Shinobu Stoh, Received March 28, 2006.

©2006 筑波大学生物学類