つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200606JI.

特集:筑波大学植物発生生理学研究室の歩み

Nicotiana tabacum cv. IMUSHI

今村  順 (玉川大学 農学部)

 当時、私の実験材料はタバコで、農場のガラス温室の一部をお借りして品種SamsunやN.rusticaを育てていた。花冠長が10数ミリになると、そこから葯を取り出して葯培養や花粉培養を行っていた。材料が途切れないように、いつも何個体かが花をつけているようにタバコを育てるようにしてはいたが、種子を蒔いて3ヶ月程度経たないと材料が得られず、また、予定した時期に花が咲かず材料が得られない時があった。そのような時が長く続くと、テニスや卓球ばかりをしているわけにもいかず、さすがに困り何度か旧農水省ウイルス研究所の笠毛先生にお願いして、研究所で育てていたSamsunの苗をいただいて、その場をしのいだこともあった。

 あるとき、通常よりも何倍かの葯を使う必要が出てきた。ちょうどそのころ、前から目をつけていた妻木の畑に植えられていたタバコが花をつけ始めていた。その畑の持ち主にわけを話し、大量のツボミを得ることが出来た。今まで自分が育てたタバコから数個体分のツボミを集めて実験してきたことに比べ、苦労せず一時に大量のツボミが得られたので、これで楽に多くの実験が出来ると思ってうれしくなったことを今でも覚えている。

 その後、実験の結果を発表することになり、使用したタバコの品種名を聞くため畑の持ち主に電話をした。持ち主は、イムシという品種だと教えてくれた。変な名前だと思い「イムシですか。どのような字を書くのですか」と尋ねたところ、「カタカナでイムシだ」とのことでした。それをそのままローマ字つづりにしてNicotiana tabacum cv.IMUSHIとして発表した。後日これが誤りだったと原田先生からお聞きした。先生は当時の日本専売公社の研究員からIMUSHIという品種はなく、筑波で主に作っているのはMCと言う品種だと教えられたそうだ。そうか、イムシではなくエムシだったのか。茨城弁はむずかしい。

(1981年生物科学研究科修了)

Communicated by Shinobu Satoh, Received June 12, 2006.

©2006 筑波大学生物学類