つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310738

放線菌のプロモーターに関する研究

上野 広太郎(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:小林 達彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

背景と研究目的 
 ストレプトマイセス属放線菌は抗生物質をはじめとした様々な有用物質生産菌であり、産業上非常に重要な菌群として知られている。しかし、その遺伝子操作におけるツール(例えば大量発現系など)の不足が研究の妨げになっており、問題の一つとなっている。このような背景の下、今後の放線菌研究や産業への貢献を目的として新規高発現ベクターの開発が試みられた。
 当研究室において、ロドコッカス ロドクロウス J1菌由来高分子量型ニトリルヒドラターゼは培地中に誘導剤として尿素を添加することにより本酵素が大量に発現することが知られている。このことから本酵素の誘導発現には強力な誘導型プロモーターが関与していることが予測され、この強力な転写活性を持つプロモーターを利用してストレプトマイセス属放線菌用発現ベクターの構築が始められた。
 ロドコッカス属放線菌由来の高分子量型ニトリルヒドラターゼ発現系がストレプトマイセス属放線菌内で機能するのか、その確認実験が行われた結果、ストレプトマイセス属放線菌内でこの発現系が働くことが確認された。しかし、その発現は構成的であり、ストレプトマイセス属放線菌内では誘導発現に必要な因子が不足していることが明らかとなった。誘導型ではないもののこの強力な転写活性能力は非常に魅力的であることから、まずこれを利用した構成的発現ベクターの開発が進められた。本研究では既に構築された発現ベクターの機能確認実験を行うことを目的とした。

方法と結果 
 本ベクターの機能確認として、種の異なる様々なストレプトマイセス属放線菌を宿主とし、発現実験を行った。レポーター遺伝子として(ストレプトマイセス属放線菌での発現が確認されている)ロドコッカス由来の高分子量型ニトリルヒドラターゼ遺伝子を用い、本ベクターに挿入し発現プラスミドを構築した。そして様々なストレプトマイセス属放線菌に導入し、その発現状況を確認した。その結果、それぞれの宿主において高分子量型ニトリルヒドラターゼが活性のある形で著量発現することを活性測定およびSDS-PAGEで確認した。このことから本ベクターが様々なストレプトマイセス属放線菌において機能することが確認され、その汎用性が示された。
 
今後の予定 
 本ベクターは有用タンパク質および有用生理活性物質生産上、非常に有効なツールと言 える。今後は本ベクターのさらなる機能の付与を行う予定である。


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