つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310739

含窒素化合物の微生物分解に関する研究

宇津木 良城 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:橋本 義輝 (筑波大学 生命環境科学研究科)


(背景・目的)

 窒素を含んだ官能基には様々な特徴を示すものが多く存在する。その中で、アジド化合物は3原子の窒素が互いに二重結合で繋がった官能基を持つ化合物の総称である。アジド化合物の特徴として、その多くが強い毒性や爆発性を有しており、様々な分野で利用されている。例えばアジド化合物は、毒性を利用して、実験用のカラムや検査試薬等の防腐剤として使われており、爆発性を利用して、銃弾や地雷の信管、また、身近なところでは自動車エアバックの起爆剤として使用されてきた。しかし、その高い毒性や爆発性、さらに安全かつ簡便な分解処理方法が確立されていないといった問題点から、現在、アジド化合物の使用が敬遠される傾向にある。
 そこで、本研究の目的として、このように毒性や爆発性があるものの、有用物質であるアジド化合物を広く利用できる形にしていきたいと考え、自然界よりアジド化合物分解微生物をスクリーニングし、得られた微生物からアジド化合物分解に関わる酵素を取得、さらには、その諸性質の解明を行っていこうと考えた。アジド化合物は自然界に存在するものの、その代謝に関わる酵素はいまだ見つかっていない。この研究によって、アジド化合物代謝に関わる新規反応経路が発見できれば、アジド化合物の分解処理への応用やアジド化合物を介する物質生産への利用などに結び付けられることを期待している。


(方法・結果)

 様々な培地条件でのスクリーニングの結果、高いアジド化合物分解活性をもつ菌株を取得した。この菌株の菌学的諸性質を調べた結果、運動性を持つグラム陰性の桿菌であると推定された。  
 最適アジド化合物分解活性を示す条件で培養した菌株を用いて細胞を破砕して無細胞抽出液を調製し、各種条件検討を行った。  
 無細胞抽出液ではアジド化合物分解活性を示したが、透析することで本活性は消失した。しかし、透析した無細胞抽出液に無細胞抽出液を限外ろ過した画分を添加することでアジド化合物分解活性が回復することを発見した。このことから、限外ろ過した画分に含まれる何らかの低分子化合物がアジド化合物分解活性に重要な役割を果たすことが分かった。これにより、アジド化合物分解活性測定系の構築に成功でき、明確な条件検討が可能になった。現在、アジド化合物分解に関わる酵素の精製を試みている。


(今後の予定)

 単一酵素まで精製を行いその諸性質を解明すること、および酵素遺伝子を同定することで、応用的な分野への利用を検討する予定である。

 


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