つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310743

バテイラ(腹足綱:ニシキウズガイ科)の海中囲い込み実験

大澤 雷大 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:青木 優和(筑波大学 生命環境科学研究科)

■目的
大型渇藻類の葉上にすむ巻貝類は、沿岸生態系内で藻食者として重要であるとされている。それら巻貝の摂食活動が藻類に与える影響を実験的に評価するためには巻貝の密度を一定に保つ必要がある。しかし、海中において日照条件、波浪の影響などの物理的要因を変えずに貝類の密度を保つ手段は確立されていない。また、アワビ・サザエを中心として行われている巻貝類の地蒔き養殖では、放流した稚貝を囲い込む手段が確立していないために成貝の回収率は低い。
一方、過去に行われた潮間帯貝類の研究では、腹足類が銅を乗り越える事ができない事が知られており、その排除実験・囲い込み実験には銅塗料あるいは銅製のバリケードが用いられてきた。しかし、海中において貝類の密度防御に銅が用いられた例はない。
そこで本研究では、巻貝類の操作実験やその養殖技術への応用を目標として、大型渇藻の葉上に頻出する腹足綱ニシキウズガイ科のバテイラOmphalius pfeifferi pfeifferi を対象として銅塗料を用いた海中囲い込み実験を行った。

■方法
静岡県下田市鍋田湾の水深約10mに設置されているコンクリート基盤を利用して実験を行った。基盤の上面は30cm×30cmの正方形、高さは40cmである。囲い込み実験のため2006年8月30日午前にコンクリート基盤16個のうち8個の上面に、40cm×40cmで高さ10cmのスレート材製の箱状区画を水中ボンド(コニシ株式会社製)により固定した。4個は壁の内外にシーブルーキング(大日本塗料株式会社製)を塗り、コントロールとして残り4個は塗装しなかった。塗装有りの区画をA、B、C、Dとし、塗装無しの区画をE,F,G,Hとした。
実験に使用したバテイラは静岡県下田市志太ヶ浦の水深3m以浅の岩礁地帯から2006年8月30日午後に素潜り潜水によって採取した。その後実験に使用するまでは、屋内水槽に畜養した。2006年8月31日午前に、前日ペイントマーカーで個体識別のマーキングを行ったバテイラを各区画に10個体ずつ導入した。以後、2006年10月3日まで11回、2日〜8日の間隔で個体数を測定した。

■結果
塗装していない区画(E、E,G,H)のバテイラは、導入後1時間以内に全ての個体が区画から脱出した。塗装した区画では、実験終了時の10月3日で、Aで8個体、Bで9個体、Cで9個体、Dで7個体が生存していた。

Fig1. 塗料有り区画のバテイラ個体数の推移


■考察
シーブルーキングによってバテイラの行動が制限されていたのは明らかである。
本研究により、銅塗料を用いたバリアにより海中においてバテイラの密度をコントロールできるということが確かめられた。これにより、バテイラでは海藻へ摂餌などの影響を定量的に検討することが可能となる。またこの技術は他の巻貝類にも応用できる可能性が高い。したがって将来的には放流稚貝の養殖などへの応用も可能かもしれない。

この発表要旨は、2007年2月28日から公開しました。

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