つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310744

ニトリル前駆体アナログの微生物分解

大須賀 勝 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:小林 達彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

背景・目的
 ニトリル化合物は、化学工業における重要な中間原料であり、溶媒、アクリル繊維の前駆物質ナイロン6,6の製造原料、ニトリル系除草剤等と、その用途は極めて多岐にわたっている。これらのニトリル化合物はシアノ基を含んでおり一般的に猛毒性を呈する化合物であるが、自然界にはこれらのニトリルを分解解毒できる生物が存在する。微生物におけるニトリルの代謝系としては、ニトリラーゼによりニトリルを直接カルボン酸とアンモニアに加水分解する系と、一方、ニトリルヒドラターゼによりニトリルを水和してアミドにし、さらにアミダーゼによりカルボン酸とアンモニアに加水分解する系が知られている。ニトリルヒドラターゼは、アクリロニトリルからのアクリルアミドの工業生産に用いられており、これは酵素法による大量生産型化成品生産の初めての例として注目を集めた。また、ニコチンアミドの工業生産にもこの酵素が利用されているように、産業生産に関わる重要な酵素である。
 自然界では、ニトリル前駆体であるアルドキシムを基質として、アルドキシムデヒドラターゼの脱水反応によりニトリル化合物は合成されている。この酵素は水溶液中での反応にも関わらず脱水反応を触媒し、かつ、炭素-窒素三重結合を形成する類い稀なる酵素であり、また、ヘムタンパク質でありながら従来のヘムタンパク質には見られない機能を持っている。
 当研究室はこれまで本酵素に関する研究を行っており、この酵素の基質特異性を調べる過程で、基質となり得ないニトリル前駆体アナログ化合物を発見した。本研究ではこのニトリル前駆体アナログ化合物の代謝経路の発見及び代謝に関わる酵素の研究を行うことを目的とした。


方法・結果
 まずニトリル前駆体アナログ化合物を単一窒素源とする培地に筑波近郊の土壌を加え、集積培養を行った。得られた菌体培養液を液体培地と同組成の寒天培地上に塗布し、生育したコロニーを新しい寒天培地に植え継ぐことで菌株の単離を行い、ニトリル前駆体アナログ化合物を代謝可能な微生物を数株スクリーニングした。
 さらに、培養した菌体で細胞懸濁液を調製して基質と混合し休止菌体反応を行い、ガスクロマトグラフィーによる基質の減少と新たな生成物と考えられる未知のピークの増加を確認した。この未知のピークは、使用したニトリル前駆体アナログ化合物に対応するニトリル化合物とは異なることから、新規代謝経路の存在が示唆された。以後の実験では、特にニトリル前駆体アナログ化合物の代謝能力の高い菌を選択した。
 選択した菌株において、様々な培養条件(培地組成、培養時間、誘導剤)を検討し、ニトリル前駆体アナログ化合物の代謝能力を低下させることなく、本菌体を大量に取得出来る培養条件を決定した。現在、本条件で菌を大量に培養し、目的のニトリル前駆体アナログ化合物の代謝に関わる酵素の精製を行っている。


今後の予定
 目的の酵素を完全精製し、酵素の詳細な特徴を調べる。また、本酵素のアミノ酸配列の情報を基に構造遺伝子を単離し解析する。


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