つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310754

タバコ毛状根培養系を用いた細胞間移行関連変異体の作出と解析

金井 要樹 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:岩井 宏暁 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景・目的】
 植物は動けないという体制上の特徴から、常に環境要因の変化にさらされているが、それらの変化にうまく適応することで、生育し続けることを可能としている。植物が外部環境の変化に応答し、個体発生を行うとき、植物細胞ではどのようにして細胞内へとシグナルが送り、また、どのような細胞間のコミュニケーションを行うことで、適応反応や発生・分化が引き起こされているのかについては、未だ明らかにされていない点が多い。高等植物にとって最も主な細胞間移行手段は、原形質連絡であり、この構造体は隣接細胞間を直接つなぐチャネルの役割を果たしている。原形質連絡を通る物質の中には転写制御因子などもあり、発生・分化の制御にも関わる重要な構造体であると考えられている。こうした転写制御因子の細胞間の移行機構、作用機構を理解する上で、原形質連絡に存在する植物因子の解析は重要と思われるが、微細な構造であることや特異的な生化学的活性が知られていないために、そのような植物因子についての情報は未知な点が多い。本研究は、タバコの培養系を利用することで、致死性の突然変異体を作出・維持し、解析困難であった新たなハウスキーピング遺伝子の同定を行うこと、そして高等植物の細胞間コミュニケーションのメカニズムの解明することを目的としている。

【方法】
(1)新規変異体の作出
 Nicotiana tabacumを材料に、同一T-DNA上に毛状根誘導遺伝子であるrol(rooting locus)遺伝子クラスター、GFP発現カセットおよびCaMV35Sエンハンサーリピートを有するバイナリーベクター(pHR-AT-GFP)を用いた毛状根誘導アクティベーションタギングを行った。また、半数体N. plumbaginifolia を材料に、rol遺伝子クラスター、およびGFP発現カセットを有するpBI系ベクター(pBCR101)を用いた毛状根誘導遺伝子破壊型タギングを行った。得られた株の中から器官形成が異常なものを選抜し、培養した。
(2)変異体の形態観察
 走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて、変異体の形態を観察した。
(3)HPTS細胞間移行実験による細胞間移行関連変異体のスクリーニング
 シンプラストのトレーサーであるHPTSをカルスの切断面より投与し、その移動様式を経時観察した。Normalと比較して移動が遅い、または速いものを細胞間移行関連の変異体として選抜した。
【結果・考察】
(1)新規変異体の作出
 半数体N. plumbaginifoliaの遺伝子破壊型タギングにより変異を誘発した変異体では、正常な毛状根を形成せず、器官分化能力に異常を生じ、カルス状のfrootfuwa fuwa root)変異体が2ライン(froot-3、froot-5)得られた。また、N. tabacumのアクティベーションタギングにより変異カルス表面から根毛が多数生えているfroot-A11が得られた。
(2)変異体の形態観察
 SEMで観察したところ、froot-5は細長い細胞で構成され、細胞外に繊維状の物質が多量に付着していることがわかった。そこで、ルテニウムレッドを用いてペクチン染色をしたところ、顕著な染色が観察されたため、froot-5では細胞外に多量にペクチンを分泌していることが考えられた。また、froot-A11のSEM観察では、大きく細長い細胞で構成されていた。根毛領域はNormalのものよりも密に生えている様子が観察された。
(3)HPTS細胞間移行実験による細胞間移行関連変異体候補のスクリーニング
 froot-3はNormalと比べてHPTSの移動が遅かった。froot-5は逆に速いという結果が得られた。froot-A11はNormalとほぼ変わらない移行の仕方を示した。これらは原形質連絡の異常により、転写制御因子の輸送が正常に行われなかったために、異常な形態になった可能性がある。
 今後はTAIL-PCRなどを行い、遺伝子の同定を行っていきたいと考えている。


©2007 筑波大学生物学類