つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310758

アサガオの光周性花成誘導におけるSOC1相同遺伝子の機能解析

草間 真智子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:松本 宏(筑波大学 生命環境科学研究科)

《背景と目的》
 花成とは、栄養成長から生殖成長への移行であり、茎頂分裂組織に劇的な変化をもたらす重要なプロセスである。花成は、様々な内生要因と環境要因によって調節されているが、日長によって花成が誘導されるものを光周性花成誘導という。花成誘導の分子遺伝学的解析は、条件的長日植物であるシロイヌナズナでよくなされており、光周性花成経路の他に、春化経路、自律的経路、ジベレリン経路が存在する。FLOWERING LOCUS TFT)、TWIN SISTER OF FTTSF)、LEAFYLFY)、AGAMOUS-LIKE 20 /SUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO 1 SOC1)の4遺伝子は、各花成経路の統合遺伝子であり、茎頂において生殖成長への転換を促す。これらの中で、SOC1の機能については未解明な点が多い。
 SOC1は、花成促進的に働くMADS box遺伝子である。SOC1の相同遺伝子には、イネのOsMADS50やシロガラシのSaMADS Aなどがあるが、いずれも花成促進的に働く。先行研究により、アサガオにおいても、SOC1相同遺伝子PnSOC1の完全長cDNA配列が同定されている。アサガオは、一回の16時間誘導暗期処理で花芽を形成する絶対的短日植物であるため、光周期と花成の関係を明らかにするのに適した材料である。したがって、光周性花成誘導におけるSOC1の機能を明らかにすることが可能であると考えた。
 本研究では、花成におけるPnSOC1の機能を解明し、アサガオの光周性花成誘導経路を解明することを目的とする。

《材料と方法》
   材料は、アサガオ品種ムラサキ(Pharbitis nil cv. Violet)を用いた。
1.形質転換体の作成
 35Sプロモーターによる過剰発現体とRNAiによる発現抑制体を作出した。作成したコンストラクトをアグロバクテリウムに導入し、アサガオの未熟胚から誘導した不定胚に感染させた。カナマイシンによる選抜を行い、再分化した個体を発根誘導培地に植え替え、ゲノミックPCRによって遺伝子導入が確認された個体を馴化した。24℃、16h明期/8h暗期の長日条件下(LD)で約3週間生育させた後、10h明期/14h暗期の短日条件下(SD)へ移し、花芽をつけさせた。
2.PnSOC1の発現解析
 RT-PCRにより、PnSOC1の発現量を、花成誘導条件と非誘導条件で比較した。子葉または茎頂から抽出したRNAより調整したcDNAを用いて行った。
子葉での発現解析には、播種後7日目のアサガオを、長日条件下(LD)と短日条件下(SD)に置き、それぞれ4時間毎に採取したサンプルを用いた。また、茎頂における発現解析では、播種後7日目のアサガオに16時間暗期を一回与えたものと与えなかったものから、4時間毎に採取したサンプルを用いた。
 また、花成関連遺伝子の形質転換体における発現解析をRT-PCRによって行った。既に作出されていたアサガオの花成関連遺伝子の形質転換体[GIGANTEAGI)相同遺伝子PnGIの過剰発現体(3系統)、CONSTANSCO)相同遺伝子PnCOの過剰発現体(4系統)、FT相同遺伝子PnFTLPnFTAのRNAi抑制体(2系統)]の子葉から抽出したRNAより調整したcDNAをテンプレートに用いた。

《結果と考察》
1.形質転換体の作成
 現在までに、35S過剰発現体37系統、RNAi抑制体31系統の遺伝子導入個体を得、馴化した。これらはいずれも、十分な成長を待っているか、種子が出来るのを待っている段階である。SOC1SaMADS Aの過剰発現体では、花器官の形態に異常が見られることが報告されているが、今回作成したPnSOC1過剰発現体では、現在のところ、そのような形態異常は見られない。今後、種子が取れ次第、花成反応などの表現型の解析を行う予定である。
2.PnSOC1の発現解析
 子葉と茎頂の両方でPnSOC1の発現が確認できた。しかし、光周期に応答した発現変化は見られず、花成誘導条件と非誘導条件で発現量に差はなかった。したがって、PnSOC1の発現量は、光周期による影響を受けないことが考えられる。
 また、PnGIの過剰発現体では、PnSOC1の発現量は増加し、PnFTsのRNAi抑制体でも、PnSOC1の発現量は増加していた。PnCO過剰発現体では、PnSOC1の発現量に変化はなかったが、花成反応にも変化はない。PnGI過剰発現体では、PnFTLの発現量が低下して、花成が抑制されており、また、PnFTsのRNAiでも花成は抑制されている。これらの結果から、花成が抑制されている形質転換体でPnSOC1の発現量が増加することが示され、PnSOC1は花成に抑制的に働くことが推測された。
 花成抑制的に働くSOC1相同遺伝子は、これまでに報告されていない。PnSOC1が花成に抑制的に働くことを確実に証明するため、今後、PnSOC1形質転換体の表現型を詳細に解析する予定である。


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