つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310760

転写因子MafAの免疫系における発現および機能解析

熊谷 奈津子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:高橋 智 (筑波大学 人間総合科学研究科)

【目的と背景】
 大Maf 群転写因子は、レトロウイルスAS42から単離された癌遺伝子v-mafの細胞関連遺伝子であり、マウスでは、現在までにc-Maf, MafB, MafA, Nrlの4種類が同定されている。大Maf群転写因子は、そのN末端側に転写活性化能を有する酸性ドメインを持ち、これを持たない小Maf群転写因子とは区別される。また、C末端側の塩基性ドメインとロイシンジッパードメインからなるbZIPドメインを介して、ホモダイマーやヘテロダイマーを形成し、ゲノムDNA上のMaf認識配列へと結合することで、標的遺伝子の発現を正に制御している。MafAは、その遺伝子欠損マウスの解析から、膵臓β細胞において、インスリン遺伝子の発現制御やβ細胞分化に重要な役割を有することが明らかになった。一方で、MafAは、胸腺での発現が報告されているものの、免疫系における機能は明らかになっていない。そこで、本研究では、MafAの免疫系における機能解析を目的とした。
【方法】
1) MafAの発現
 野生型マウスの胸腺と脾臓からcDNAを作製し、MafA特異的プライマーによるRT-PCRを行った。さらに、野生型マウス脾臓より、CD4、CD8、NK1.1、CD19、Mac-1、Gr-1陽性細胞をそれぞれ磁気細胞分離法により単離し、個々の細胞分画からのcDNAを用いて、同じくRT-PCRを行った。
2) MafA遺伝子欠損マウスの解析
 遺伝的背景を均一にするために、5世代以上C57BL/6マウスに戻し交配を行った6-8週齢のMafA欠損マウスを用いて、組織学的に胸腺の表現系解析を行った。
【結果と考察】
 RT-PCRの結果、過去の報告と同様、胸腺においてのみ、MafAのmRNAの発現が認められた。一方で、脾臓由来のCD4、CD8陽性T細胞に、発現は認められず、MafAの発現は、胸腺上皮等の間質細胞またはT細胞の分化成熟段階における一過性発現が示唆された。さらに、MafA欠損マウスの胸腺に関して、マクロ所見による明らかな異常を認めず、全細胞数は、野生型マウスと同等であった。また、組織学的解析において、皮質・髄質構造の明らかな異常を認めなかった。今後は、MafA抗体を用いた胸腺内のMafA発現細胞の同定および、T細胞分化の各段階における異常の有無について、FACSを用いた解析を行う予定である。


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