つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310763

cGMP依存性チャネルのオープニングに対する2価イオンの効果

越谷真理子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:中谷 敬 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<導入>
私たちは、光刺激を網膜の視細胞で受容し、その情報を電気刺激に変換して中枢へと伝えている。視細胞には桿体細胞と錐体細胞があるが、いずれの細胞も暗所では暗電流と呼ばれる内向き電流が流れることによって脱分極した状態にある。これは、視細胞外節部分の細胞膜にあるcyclic nucleotide gated (CNG ) チャネルを通って内向き電流が流れるためである。明所では視細胞外節のロドプシンが光によって異性化することによって、G蛋白質であるトランスデューシンが活性化され、活性化したトランスデューシンがホスホジエステラーゼ(PDE)を活性化する。このPDEによって細胞内のcGMPが加水分解され、細胞内のcGMP濃度が減少する。これによってCNGチャネルが閉じ、過分極することで発生した電気信号が視神経に伝達されることが知られている。
本研究ではパッチクランプ法の中のひとつであるinside-out patchを用いてCNG チャネルの性質を解析した。

<材料と方法>
材料には動物業者から購入したウシガエル(Rana catesbeiana)を用いた。カエルの脊髄を背中側からハサミを用いて切断し、ピスした。さらに眼球から網膜を単離し、ディッシュ上で細かくチョップすることにより単離桿体標本を作製した。遊離した視細胞で外節のみとなったものを生理的塩類溶液に浸し、顕微鏡下にセットした。パッチクランプ法の実験を次の手順で行った。電極内溶液として、140mM KCl溶液を用いた。記録には抵抗値が5〜15MΩの電極を用いた。電極に陽圧を加えながらパッチ電極を細胞に接触させ、陽圧を開放することによってギガシールを形成した。ゆっくりと電極を引き上げることによって細胞から膜のパッチを切り取り、inside-out patch標本を得た。このような標本を用いてcGMPにより誘発される電流を記録し,電流に対する2価イオンの効果や固定電位に対する電流の大きさを調べることにより,CNGチャネルの特性の解析を行った。

<結果と考察>
最初に、CNG チャネルの性質を調べる目的で、細胞内外共に2価イオンを含まない140mM KCl溶液を用いて実験を行った。細胞膜を-60mVに電位を固定した状態でcGMP溶液を投与すると、cGMPに誘発される電流が観察された。ある細胞では、単一チャネル電流が観察された。
次にcGMP依存性電流に対する2価イオンの効果を調べた。Mg2+を加えたcGMP溶液では,2価イオンを含まないcGMP溶液に対する応答と比較して電流がおよそ1/2に減少した(図1)。これは、Mg2+によってチャネルがブロックされたためであると考えられる。
細胞内外の溶液組成が等しい2価イオンを含まない溶液(140mM KCl)を用いて,電流と電圧の関係(I-V relation)を求めると,その関係は直線(linear)であった。細胞質側に2価イオンを加えると、コンダクタンスは小さくなったが、電流と電圧の関係はほぼ直線であった。しかし、より生理的条件に近づけるために電極内溶液(=細胞外溶液)としてRinger液を用いると、コンダクタンスがさらに小さくなり、電流と電圧の関係は外向きの整流性が観察された。この理由として、電流が内向きのときに細胞外の2価イオンがチャネルを抑制することによって生じると考えられる。また,このときの反転電位は0mV付近であった。このことから,CNGチャネルは陽イオン非選択性のチャネルであることが示唆された。



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