つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310764

このマメゾウムシ、凶暴につき

小室 匠(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:徳永 幸彦(筑波大学 生命環境科学研究科)

<背景・目的>

 ヨツモンマメゾウムシCallosobruchus macultus(F.)(鞘翅目:マメゾウムシ科)は地理的系統によって、幼虫期の競争様式に変異を持つ。この変異は、競争を引き起こす幼虫の行動メカニズムによって大きく二分される。ひとつは、相手個体を干渉によって殺し、資源を独占するもので、勝ち抜き型と呼ばれる。もうひとつは、相手個体に対し干渉をせず、資源を分け合うもので、共倒れ型と呼ばれる。ヨツモンマメゾウムシの競争様式は、勝ち抜き型の集団の中から共倒れ型が派生してきたと考えられているが、今までに行われた先行研究は、勝ち抜き型から共倒れ型が進化しにくい事を示しており、共倒れ型の競争様式を示す系統が数多く存在する現状と矛盾する。
 勝ち抜き型の個体と共倒れ型の個体が干渉を行った際、高い割合で勝ち抜き型が勝利する。このことが、共倒れ型が勝ち抜き型の集団から進化しにくいとされる主な原因となっている。共倒れ型の個体も相手を殺す能力、つまり干渉能力を持つ事は知られているが、なぜ共倒れ型の個体が、勝ち抜き型の個体との干渉に高い割合で負けるのかはわかっていない。この事を明らかにするためには、まず、幼虫同士の干渉において、勝敗を決める要素が何かを知る必要がある。今まで、干渉の勝率は、勝ち抜き型の個体と共倒れ型の個体を同じ豆に寄生させ、干渉に勝利した後に羽化した系統の割合によって見積もられてきた。しかしこの方法は干渉の結果しか着目しておらず、幼虫同士がどのような発育時期の時に干渉が生じるのか、また、その発育時期が勝敗に影響を与えるかという点がわからない。そこで本研究は、1日ごとに、それまで生じた干渉の累積勝率を調べ、幼虫の発育時期との関連性をみることによって、両系統の発育時期が干渉の勝敗に影響を及ぼすかどうか検証する。

<材料・方法>

 実験材料として、ヨツモンマメゾウムシのhQblack、BcQと呼ばれる系統を用いた。hQblackは勝ち抜き型の競争様式を、BcQは共倒れ型の競争様式をそれぞれ示す。宿主として、サイズ調整を行った緑豆を用いた。
 まず、hQblackとBcQを5時間以内の間隔で、それぞれ緑豆に産卵させ、hQblackとBcQがそれぞれ1個体ずつ寄生した緑豆を用意した。この緑豆を用いて、12〜18日目までの期間における、観察日までに生じた1日ごとの干渉の累積勝率と、羽化時までに生じた全ての干渉の累積勝率を求めた。さらに、hQblackが1個体寄生した緑豆と、BcQが1個体寄生した緑豆を用意し、産卵から10〜18日目の期間において、1日ごとに各系統の幼虫の齢期と体重を記録した。このデータから、幼虫が干渉を起こした時点での発育時期を推測し、干渉の勝率との関連性を検証した。
 
<結果・考察>

 羽化までに生じた全ての干渉の勝率は、hQblackの勝率が81.5%、BcQの勝率が18.5%であった(n=200)。この事は、先行研究と同じく、勝ち抜き型の個体が高い割合で干渉に勝利する事を示している。しかしながら、産卵から12〜18日目の期間における1日ごとの累積勝率は、時期によってその勝率が変化していた(図1)。また、この累積勝率の変化は、両系統の幼虫の発育時期の違いに応じて変化していることが示唆された。
 一般に、共倒れ型の系統は、勝ち抜き型の系統よりも発育速度が早く、体サイズが小さい。そのため、ほぼ同時に寄生したにも関わらず、hQblackとBcQで発育状態に違いが生じる。このような、発育速度や体サイズの違いは、競争様式によってかかる選択圧が異なるために生じると考えられる。勝ち抜き型は、他個体との干渉に勝利するため、幼虫期における体サイズを大きくする必要がある。そのため、資源要求量が大きくなり、発育期間が長い個体が選択される(K-選択)。それに対し、共倒れ型は他の共倒れ型個体と資源を分け合うため、また、内的増加率を大きくするため、資源要求量が小さく、発育期間が短い個体が選択される(r-選択)。
 このような選択圧の違いにより、競争様式によって発育速度、体サイズが異なる事が、共倒れ型の干渉能力の弱体化をもたらす要因かもしれない。今後は、干渉の勝敗が幼虫の発育状態に影響を受ける事をより厳密に実証するとともに、発育速度や体サイズの違いが、競争様式の進化にどのように関わっているかという問題について考えていきたい。


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