つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310765

キイロショウジョウバエ類における雑種雌致死の変異

齊藤 梓(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:澤村 京一(筑波大学 生命環境科学研究科)

<導入>

種分化は生殖的隔離の発達を伴う。そのメカニズムはショウジョウバエ(Drosophila)でよく研究されている。オナジショウジョウバエ(D. simulans)の雌とキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)の雄を交配すると、雑種F1雌は致死となり、不妊の雄のみが生まれる(図1)。しかし、キイロショウジョウバエの変異体zygotic hybrid rescue (zhr)はF1雌の致死を救済する。この遺伝子はX染色体の動原体付近の1.688サテライトDNA(359 bpの反復配列)が占めている領域にマップされており、種間でその配列が大きく異なっている。このサテライトDNAは種内においてもその反復数に個体差があり、キネトコアを構成する部位でもあることから、サテライトDNAの反復数が多いと、種間雑種において致死を引き起こすと仮定した。これを検証するために、野外集団由来のキイロショウジョウバエiso-X系統を作成し、種間交雑によって得られるF1雌の生存率を比較した。

<材料と方法>

[野生集団由来のiso-X系統の作成]
 5〜10月中に山梨県笛吹市と筑波大学周辺において、キイロショウジョウバエを採集し、付着X染色体法を用いてiso-X系統(1匹の野生雄に由来するX染色体を持っている集団)を128系統作成した。
[種間交配と雑種のカウント]
 オナジショウジョウバエのwhite-S2(wS2)雌とキイロショウジョウバエ雄を交配し、F1の雌雄をカウントした。交配が成功した組み合わせは、親を新しいバイアルに移し、1本目のバイアルのみ25℃で、それ以降のものは18℃で飼育した。
交配にはキイロショウジョウバエのiso-Xの128系統と、対照実験としてOregon-Rとzhrを用いた。 また、雌の生存率は、F1♀/F1全体×100(%)とした。

<結果>

 F1雌は、雄親がOregon-R(野生型)のときは致死、zhrのときは18℃で完全に救済、25℃で部分的に救済された。 雄親がiso X系統のとき、F1雌の生存率は25℃で0〜50%、18℃で0〜61%と変異が見られた(図2)。
 今後、雑種致死と1.688サテライトDNA量との関係を議論するために、定量的PCRまたはドットブロット法を用いてサテライトDNA量を測定し、今回の交配結果と照らし合わせ、両者の相関関係を検証する必要がある。


図1 オナジショウジョウバエ♀とキイロショウジョウバエ♂の交配


図2 F1♀の生存率グラフ


©2007 筑波大学生物学類