つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB2007010200310766

RNA結合タンパク質hnRNP Kの周辺因子探索と機能解析

齊藤 万里江 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:入江 賢児 (筑波大学 大学院人間総合科学研究科)

【背景・目的】
 真核生物では核内でDNAから遺伝情報を写し取ったmRNA前駆体が、polyA鎖やキャップ構造の付加、スプライシングなどの転写後修飾を経て成熟mRNAとなる。その後、細胞質に輸送され翻訳調節を受け、適切な時期にタンパク質が翻訳される。この一連の過程には、様々なRNA 結合タンパク質が関与している。その一つにheterogeneous nuclear ribonucleic protein K (hnRNP K)がある。hnRNP Kは、核内においてはクロマチンの修飾やスプライシング、細胞質においては翻訳やmRNAの安定性の制御などに働くといわれているが、その詳細な作用機構については不明である。本研究でyeast two-hybrid法を用いてhnRNP Kの周辺因子を探索し、その機能を解析することでhnRNP Kの機能とその作用機構をより深く理解することを目的とした。

【材料・方法】
 マウス胎児由来のcDNA libraryを用いたyeast two-hybrid法により、hnRNP Kと相互作用する因子のスクリーニングを行った。スクリーニングで得られた因子について哺乳類培養細胞(HEK293)を用いて、免疫沈降法によりhnRNP Kとの結合を確認した。また抗hnRNP K抗体(mouse)、抗Matrin3抗体(rabbit),抗KARD抗体(rabbit)を用いた免疫染色法により、細胞内局在を確認した。翻訳阻害剤であるpuromycin(最終濃度 2.5 μg/ml)で6時間処理した哺乳類培養細胞(NIH3T3)を用いて、翻訳阻害ストレス時のhnRNP Kとその周辺因子の挙動を免疫染色法により観察した。

【結果・考察】
 Yeast two-hybrid法によりhnRNP Kと結合する因子として、RNA recognition motif (RRM)を持つ核マトリクス構成タンパク質Matrin3とRRMを持つ新規タンパク質を同定した。新規のタンパク質はK protein associating RNA binding domain(KARD)と命名した。HEK293細胞を用いた免疫沈降実験において、細胞内在性のMatrin3はhnRNP Kと結合することを確認した。また、Hela細胞内でのMatrin3の局在を免疫染色によって観察した結果、Matrin3は核内でhnRNP Kと共局在することが分かった。KARDについては抗体を作成し、その抗体を用いてhnRNP Kとの相互作用を解析した結果、細胞内在性のKARDはhnRNP Kと結合していること、また核内で共局在していることが分かった。以上の結果から、Matrin3やKARDは核内においてhnRNP Kと複合体を形成し、機能していることが示唆された。
 細胞は熱や浸透圧、酸化、翻訳阻害などのストレスを与えると、stress granule(SG)と呼ばれる粒状の構造物を形成し、ストレス時の翻訳調節、RNAの安定性の制御が起こっていることが報告されている。hnRNP Kは翻訳制御に関わることから、mRNAの制御に関わるhnRNP KがSGに関与するか検討するため、NIH3T3細胞を翻訳阻害剤であるpuromycinで処理し、翻訳を阻害した際のhnRNP Kの局在を調べた。その結果、翻訳阻害ストレス時にhnRNP Kは細胞質に粒状に局在し、SGのマーカーであるTIA-1と共局在することが明らかになった。次にKARD、Matrin3についてSGへの局在を解析した。その結果、KARDはhnRNP Kと同様にSGへの局在が確認されたが、Matrin3はSGへの局在が見られなかった。以上の結果から、hnRNP KとKARDがSGにおいて、ストレス応答に関わっている可能性が示唆された。今後は、hnRNP K、KARDのSGにおける役割を解析していく予定である。また、RNA interferenceによりMatrin3、KARDの発現を抑制したときのhnRNP Kの関与するRNA調節に対する影響も調べる予定である。



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