つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310767

細胞性粘菌の有性生殖に必須のタンパク質MacAの解析

佐伯 健太郎(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:漆原 秀子 (筑波大学 生命環境科学研究科)


<背景・目的>
細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは土壌中に生息する単細胞真核生物である。通常は単細胞アメーバの分裂で増殖しているが、環境の変化に応じて無性発生と有性発生を使い分ける。無性発生は周囲にえさがなくなった飢餓状態が引き金となり、細胞が集合して胞子塊と柄からなる子実体とよばれる多細胞体を形成する。これに対し、有性発生は暗条件、過剰水分という条件によって誘導され、異なる交配型の細胞との融合を経て、マクロシストと呼ばれる休眠構造を形成する。この過程は、細胞融合、核融合といった有性生殖の基本となる現象を含んでいること、人為的に誘導しやすいことなどの理由から、有性生殖のモデルと考えることができる。我々の研究室ではこれまでに細胞性粘菌の有性生殖に関わる遺伝子をいくつか同定しており、そのうちの一つがmacAである。macA遺伝子を破壊した株では通常の分裂増殖、子実体形成には異常は見られないが、有性生殖の重要な段階である細胞融合がまったくできなくなり、その結果マクロシストも形成されない。このことからmacAは細胞性粘菌の有性生殖に必須だと考えられている。本研究ではこれまで進められていなかったmacAがコードするタンパク質MacAの解析を行った。

<方法・結果>
先行研究でmacAを細胞性粘菌内で強制発現させるコンストラクトが作製されていた。そこで、これをもとにして、@mycタグとの融合タンパクの発現、AMacAタンパク質の大腸菌での発現、の二つのアプローチをとることにした。まず、macAのORF内に10アミノ酸からなるmyc-tag配列を挿入してMacA-mycの融合タンパクを発現するプラスミドを作製し、macA破壊株に導入してマクロシスト形成能が回復した株を得た。この株を用いて抗myc抗体によるウェスタンブロッティングを行ったがMacAタンパク質を検出することができず、蛍光抗体法による局在解析も成功しなかった。その後myc-tag配列を一部改変することによって抗myc抗体が効率よく結合するという情報を得たので、現在改変を試みている。Aについては、MacAタンパク質が推定220 kDaの大きなタンパク質であることを考慮して5つの断片に分けて発現させた。その際、機能ドメインと思われる配列は分断しないよう注意した。現在は大腸菌から回収したMacA断片に対する抗体を作製中である。

<今後の展開>
MacAタンパク質の機能を解析するには、タンパク質を検出し、局在を明らかにすることが必須だと考えられる。現在作製中の抗体 、あるいは一部改変したmyc-tagがうまく機能すれば抗体を用いた様々な解析を行っていきたいと考えている。

 



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