つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310781

TetDegraton Probeに適した蛍光タンパク質の探索

竹内 亜季子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:三輪 佳宏 (筑波大学 人間総合科学研究科)

〈背景・目的〉
  当研究室で開発されたTetDegraton Probeとはテトラサイクリンの誘導体であるドキシサイクリン(Dox)を蛍光として検出できるProbeで、分解制御部位である変異Tet Repressor (TetR )と蛍光タンパク質からなる融合タンパク質である。普段は細胞内でユビキチンプロテアソーム系によって分解されてしまうが、Doxとの結合で分解を免れる性質を持っている。そのためDox非添加時には蛍光が検出されないが、Dox添加時では変異TetRが安定し、蛍光が検出される。当研究室のこれまでの研究で、TetDegraton Probeを導入した培養細胞 HEp-2にDox添加後、除去後の蛍光強度の推移が確かめられている。これによるとDox添加後8時間で最大値の約60%の蛍光が検出され、またDox除去後24時間で蛍光はほぼ検出されなくなった (Data not shown)。
  既存のTetDegraton Probeには蛍光タンパク質としてEGFP (enhanced Green Fluorescent Protein ;緑色の蛍光を示す)が用いられている。EGFPよりも成熟が早く、より短時間で蛍光が検出され、かつ分解されやすくDox除去後の蛍光の減少が早い、そのような蛍光タンパク質に置き換えることによって時間分解能が上がり「キレ」がよくなる可能性が考えられる。さらに緑色の波長は自家蛍光と重複しやすく、マウスでのin vivo解析に応用する際に、組織深部では検出しにくいという難点がある。 そのため緑色よりも長波長で、強い蛍光強度を持つ、より明るい蛍光タンパク質を用いれば、TetDegraton Probeをin vivoイメージングでより有効に用いることができるのではないかと考えた。また用いる蛍光タンパク質によっては細胞内で局在を示すものがあるかもしれないので、この点も確認しなければならない。
〈材料と方法〉
◎蛍光タンパク質
現在までに様々な蛍光タンパク質が開発されているが、上記の点をふまえて以下に示す10種類の蛍光タンパク質で、どれがTetDegraton Probeの有効性をより高められるかを調べた。
緑色蛍光を示す…[1]GFP2, [2]humanized Azami Green (huAG), [3]monomer Azami green (mAG), [4]MGFP (monster GFP)
黄色蛍光を示す…[5]Venus
橙色蛍光を示す…[6]Kusabira Orange (KO)
赤色蛍光を示す…[7]DsRed1, [8]DsRed2, [9]huKeima, [10]humKeima
さらに厳密な分解状態を解析するためにKaedeと当研究室で開発されたKaede2を用いた。
◎vectorの構築と解析
変異TetRの下流に各蛍光タンパク質を組み込んだvectorを構築した。このvectorをヒト喉頭ガン由来のHEp-2細胞に導入した。4日間ジェネティシン(G418)でセレクションした後、FACSで蛍光positiveな細胞の割合と蛍光強度を解析し、蛍光顕微鏡で細胞内局在を観察した。
◎時間経過の測定
各vectorをHEp-2細胞に導入した。そしてDoxを添加、その後除去して0〜4日経過した培養細胞と、コントロールとしてDox非添加の培養細胞をFACSで解析した。

〈結果・考察〉
全ての蛍光タンパク質でDox添加により、蛍光の増加がみられた。既存のEGFPを用いたProbeではDoxを添加することにより約13倍に蛍光が増加した。huAGとVenusではDoxの有無に関わらず、他の蛍光タンパク質よりも強い蛍光がみられた(huAGのDox非添加時、添加時の蛍光はEGFPと比較してそれぞれ約1.5倍、約1.7倍。Venusの蛍光はDox非添加時、添加時ともにEGFPの約2.5倍)。MGFP, KO, DsRed1, DsRed2, Kaede2はDox添加時の蛍光がEGFPよりも弱かったものの、高い誘導率を示した。特にDsRed2は約80倍という著しく高い誘導率を示した。高い誘導率と赤色という長波長の波長特性を持ち合わせていることから、現時点でTetDegraton Probeをより有効にする蛍光タンパク質であると期待される。KaedeはDox添加時の蛍光強度がEGFPよりも強く、そして高い誘導率を示した。
このように蛍光タンパク質の違いによって誘導率(キレ)に差がでた。さらに時間分解能や細胞内局在を調べることによって、Probeとしての有効性の考察を進めていきたい。
〈今後の展望〉
未完成であるvectorの構築とFACS解析を行うとともに、各Probeの細胞内局在を蛍光顕微鏡で解析する。また時間経過を追って蛍光を測定することで、時間分解能を調べ、Probeとしてのキレを解析する。そしてこれらの結果をふまえて、どの蛍光タンパク質がTetDegraton Probeとしてより有効であるか考察を深める必要がある。
Kaedeは緑色の蛍光を示すが、360〜410nmの紫外光を照射すると赤色へと波長特性が変化する蛍光タンパク質である。この特徴を活かして、Dox添加により発現しているKaedeをUV照射によって、赤色に波長特性を変化させ、その減衰を測定することによってKaedeのturnoverを解析する。Dox添加が変異TetRに融合している蛍光タンパク質に及ぼす影響、すなわちDox添加時の蛍光産生反応を調べることによって、TetDegraton Probeへのより深い理解が得られる。


©2007 筑波大学生物学類