つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310782

新規IgM受容体Fcα/μRのB細胞における機能

竹下 貴恵 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:渋谷 彰 (筑波大学人間総合科学研究科)

<背景・目的>
 Fcレセプター(FcR)は免疫系細胞上に発現し、免疫グロブリンimmunoglobulin(Ig)のFc部分に結合することによって免疫系細胞による貪食、抗体依存性細胞傷害、サイトカイン産生などの抗体による免疫反応の誘導に重要な働きをしている。これまでにIgのサブクラスであるIgGに対するFcRとして、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)が、IgEに対するFcRとして、FcεRI、FcεRII(CD23)が同定されており、ノックアウトマウスの解析から、これらFcRが自己免疫疾患、アレルギーなど種々の免疫反応に深く関与していることが明らかにされてきた。一方、IgMに対するFcRはその構造、機能が謎に包まれていたが、我々の研究室はIgMに対するFcR、Fcα/μ receptor(Fcα/μR)を同定することに成功した。IgMは生体が本来有する自然抗体の大部分を占めるのみならず抗原に対して最初に産生される抗体であることから、IgMは免疫応答早期において抗原と複合体を形成すると考えられている。一方、Fcα/μRはB細胞に発現していることから、B細胞が抗原—IgM複合体と会合した場合、B細胞レセプター(BCR)とFcα/μRが抗原—IgM複合体によって共架橋が引き起こされると考えられる。本研究はFcα/μRとBCRの共架橋がB細胞活性化に及ぼす影響を検討することを目的とする。

<方法>
 抗原としてNP付加KLH (NP-KLH)を用い、抗KLH-マウスIgM抗体とインキュベーションすることにより抗原—IgM複合体を形成させた。抗原特異的なB細胞の活性化を検討する目的で、NP抗原特異的BCRのノックインマウスであるQMマウスから得られた脾臓細胞より磁気細胞分離法を用いてB細胞を精製した。B細胞を抗原—IgM複合体と共に一晩培養を行い、FACSを用いてB細胞上のCD86分子の発現上昇を指標にB細胞の活性化について検討した。
 さらに、Fcα/μRへのIgM結合阻害作用を有する抗Fcα/μR抗体(TX57)でプレインキュベーションしたQM B細胞を用いて同様の培養を行い、抗原—IgM複合体によるB細胞活性化におけるFcα/μRの関与を検討した。

<結果>
 NP-KLHとの培養によって活性化に伴うQM B細胞上のCD86発現上昇が認められたが、このCD86発現上昇はNP-KLHが抗KLH-マウス IgM抗体とIgM複合体を形成した際に低下した。一方、コントロールマウス IgMではCD86発現上昇に変化は認められなかった。さらに、上記のIgMとの複合体形成によるCD86発現上昇抑制効果は、QM B細胞をTX57でプレインキュベーションすることによって消失した。

<考察>
 以上の結果から、抗原特異的なB細胞刺激において、抗原がIgMと複合体を形成した際にB細胞の活性化が抑制されることが示された。またその抑制効果はTX57抗体によってFcα/μRへのIgM結合を阻害することによって解除されたことから、Fcα/μRを介した作用であることが示唆された。すなわち、抗原—IgM複合体によるFcα/μRと BCRの共架橋によってBCRによるB細胞活性化が負に制御されている可能性が示唆された。今後は上記抑制作用についてFcα/μRを介した細胞内シグナル伝達の可能性等、その分子機構について更に検討を行っていく予定である。


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