つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310788

SMEK1と転写因子Foxo1の分子間相互作用の解析

圓谷 美香(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:谷本 啓司(筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景・目的】
 転写因子Foxo1は,フォークヘッドドメインと呼ばれる特徴的なDNA結合ドメインを有する転写因子群のサブファミリーの一つであり,標的遺伝子のプロモーター上に結合し、転写を活性化する。Foxo1は、様々な因子との相互作用や翻訳後修飾を介して複合的な制御を受けることが知られている。またその機能として、糖・脂質代謝や酸化ストレス応答、寿命・老化など多様な生理作用の調節があげられる。
 このうち寿命や老化に関しては,線虫におけるFoxo1のホモログであり、寿命決定因子として知られるDAF-16について盛んに研究が行われており、最近Wolffらの線虫を用いた研究から、DAF-16を介した寿命の調節に関わる新規分子としてSMK-1が報告された(Wolff. S. et.al, Cell 124, 1039-1053, 2006)。この分子は、様々な生物種で高度に保存されたアミノ酸配列を有しており、哺乳類におけるホモログとしてはSMEK1が存在するが、その機能については未知である。しかし、前述の報告でSMK-1とDAF-16との遺伝学的関係が示唆されていることから、SMEK1はFoxo1の新規調節因子である可能性が考えられる。
 そこで本研究ではSMEK1によるFoxo1制御機構の解明を目的とし、SMEK1とFoxo1の分子間相互作用の解析を行った。

【材料・方法】

  1. SMEK1 cDNAのクローニング、及びタンパクの精製
     HEK293細胞から抽出したmRNAからRT-PCR法によりSMEK1 cDNA断片を増幅し、pcDNA3-HAベクターに挿入した。また、同断片をpGEX-6Pベクターに挿入し、大腸菌BL-21株にてGST融合タンパクを発現させ、グルタチオンセファロースビーズを用いて精製した。
  2. Northern blotting
    500bpのSMEK1 cDNA断片をprobeとし、Ambion First Choice Human Blot Iを用いてNorthern blottingを行った。
  3. Pull-down assy
     HA-SMEK1を過剰発現させたHEK293T細胞の抽出液と、GST-Foxo1タンパクを用いてpull-down を行い、HA抗体によるWestern blottingにより両者の結合を検出した。 また、FLAG-Foxo1を過剰発現させたHEK293T細胞の抽出液とGST-SMEK1タンパクを用いて同様にpull-down を行い、FLAG抗体により両者の結合を検出した。
  4. Co-immunoprecipitation assay(共免疫沈降)
    HEK293T細胞にHA-SMEK1及びFLAG-Foxo1を過剰発現させた後、FLAG抗体を用いて免疫沈降を行い、HA抗体によるWestern blottingにより両者の結合を検出した。
  5. 細胞内局在の観察
    HA-SMEK1を過剰発現させたHepG2細胞を用いて免疫染色を行い、SMEK1の細胞内局在を観察した。


【結果・考察】
  Northern blottingの結果、SMEK1は脳や胎盤を除く多くの組織に発現していることが分かった。Foxo1はほぼ全ての組織に発現していることが知られているため、この2者は組織において共発現しているといえる。
  pull-down assayの結果、in vitroにおけるSMEK1とFoxo1の結合が検出され、共免疫沈降の結果、過剰発現系でのin vivoにおける結合が検出された。これらのことから、SMEK1がFoxo1に結合し、直接作用を及ぼしている可能性が考えられた。また、細胞内局在の観察からSMEK1は主に核に局在することが示された。Foxo1は核内と細胞質間を移行することが知られているため、Foxo1とSMEK1は核において共局在しえる。以上のことから、SMEK1はFoxo1と核内で結合しているのではないかと考察される。このことは、Wolffらの研究で示唆された、「SMK-1がFoxo1のコアクチベーターとして働くのではないか」という仮説とも合致する。
  今後はSMEK1がFoxo1に対してどのような影響を及ぼしているかについて、検討を行っていく予定である。具体的には、レポーターアッセイを用いてFoxo1による転写活性化へのSMEK1の関与について検討を行っていきたい。        
               

       
©2007 筑波大学生物学類