つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310793

発酵茶高分子ポリフェノール(MAF)の生理作用の研究

芳賀 鉄矢 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:沼田 治 (筑波大学 生命環境科学研究科)

[目的]
 ウーロン茶にはさまざまな効能があると言われており、抗酸化作用、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用などの多くの効能が報告されている。ウーロン茶の効能の1つに呼気中の二酸化炭素量増加がある。本研究室ではこの呼気中の二酸化炭素量増加にはミトコンドリアの活性化が関係していると考え、細胞レベルおよび個体レベルでの研究を行ってきた。その結果、ウーロン茶に含まれる高分子ポリフェノールがテトラヒメナおよびマウス精子でミトコンドリア膜電位、ATP産生量、酸素消費量を上昇させることがわかった。しかし、これまでのミトコンドリア膜電位測定法では実験結果が不安定であった。そこで、私はこの方法の改良、確立を行った。また、U型糖尿病モデルマウスへのウーロン茶高分子ポリフェノールの腹腔内注射及び経口投与を行った先行研究より、血糖値の低下、血中遊離脂肪酸の低下、そして脂肪肝の改善などが見られた。そこで、ウーロン茶高分子ポリフェノールと同様にミトコンドリアを活性化する紅茶高分子ポリフェノールのU型糖尿病モデルマウスへの経口投与を行い、血糖値、脂肪量、肝脂肪の変化を調べることにした。

[方法]
T.ミトコンドリア膜電位測定
 ミトコンドリア膜電位の測定法を改良するにあたって、EGCG(エピガロカテキンガレート)を用いて実験を行った。まず、植え替えてから8時間培養したテトラヒメナのPYD培地(1%Proteose Peptone、0.5%Yeast Extract、0.87%D-Glucose)2.7mlにDMSO(5%ジメチルスルホキシド)で1.0mg/mlに希釈したEGCG 0.3mlを加えた。コントロールとしてサンプルの溶媒であるDMSOのみを加えた。測定はサンプル処理を止めるためにNKC(0.2%NaCl、0.008%KCl、0.012%CaCl)で洗浄し、テトラヒメナが飢餓になった状態で行った。ミトコンドリア膜電位の測定を改良するため、1)サンプルを調製する溶媒をDMSOからDW、NKC、エタノールに変えて、ミトコンドリア膜電位の測定を行った。2)サンプルとの処理時間を1時間、2時間、4時間、8時間、12時間に変えてミトコンドリア膜電位の測定を行った。また、Rhodamine123でテトラヒメナを染色した時のバックグランドの蛍光強度を測定するため、サンプル処理したテトラヒメナを2つに分け、その1つにミトコンドリアの呼吸機能を抑える0.5%アジ化ナトリウム処理をして蛍光強度を測定した。

U.U型糖尿病モデルマウスへの紅茶高分子ポリフェノールの経口投与
 U型糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jc1)にDWで調製した0.02%あるいは0.01%紅茶高分子ポリフェノールを経口投与した。コントロールとしてはDWのみを投与した。各グループはモデルマウス10匹ずつとした。2日に1度給水量、1週間に1度体重、摂餌量、2週間に1度血糖値を測定した。また投与開始から5週目と10週目に眼窩採血を行いインスリン値、GOT/GPT値、遊離脂肪酸値、総コレステロール値、中性脂肪値、アディポネクチン量を測定した。10週目にはU型糖尿病モデルマウスを解剖し、内臓脂肪量を測定し、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、脳、筋肉、精巣、褐色脂肪、白色脂肪の組織切片を作成し、組織の変化を調べた。

[結果]
T.ミトコンドリア膜電位測定法の改良
1)サンプルを溶かした溶媒の効果
 サンプルを調製する溶媒を変えたところ、DWとDMSOではミトコンドリア膜電位の上昇が見られた。しかし、NKCとエタノールではコントロールと比較して0.4から0.7倍程度の低いミトコンドリア膜電位を示した。


2)サンプルの処理時間の効果
 サンプルとの処理時間を変えたところ、1時間、2時間、4時間処理ではコントロールと同程度のミトコンドリア膜電位を示した。それに対し、8時間と12時間処理ではコントロールの4.5から5.5倍のミトコンドリア膜電位の上昇が見られた。


U.U型糖尿病モデルマウスへの紅茶高分子ポリフェノールの経口投与
 現在進行中であり、結果は4月13日に出る。卒研発表会では中間結果を発表する。

[考察]
 サンプルを調製する溶媒がDWとDMSOではミトコンドリア膜電位は上昇した。しかしNKCとエタノールではコントロールを下回るミトコンドリア膜電位を示した。このことからNKCとエタノールはサンプルを調製する溶媒として適していない。また、サンプルとの処理時間を変えてミトコンドリア膜電位を測定すると1時間、2時間、4時間処理ではコントロールと同程度のミトコンドリア膜電位を示した。それに対し、8時間と12時間処理ではミトコンドリア膜電位の上昇が見られた。このことからサンプルとの処理時間は8時間以上必要である。しかし、実験結果は行うごとにばらつきがあり、サンプルを調製する溶媒、サンプルの処理時間以外にも影響を及ぼしている要因があると考えられる。例えば遠心によるテトラヒメナへのダメージや飢餓状態にある時間などである。今後はこれらの問題点の解決を目指したい。


©2007 筑波大学生物学類