つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310794

ブランコヤドリバエの寄主加害植物に対する反応

羽生 和史 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:戒能 洋一 (筑波大学 生命環境科学研究科)

導入・目的
 ヤドリバエは多くの農業害虫に寄生することから、同じ捕食寄生性天敵の寄生蜂と共に古くから生物的防除資材として注目されており、その研究テーマの一つに誘引物質による行動制御がある。植物は寄主に加害、もしくは産卵などの被害を受けた際に揮発性物質を放出し、それをひとつの手がかりとして捕食寄生者は寄主を発見するのではないかと考えられている。今回用いたブランコヤドリバエは広食性の捕食寄生性昆虫であり、寄主の一種であるアワヨトウに加害されたトウモロコシに誘引されることがすでに分かっている。そこで本研究では@植物が加害されてからの時間経過による誘引性の変化、A誘引物質が直接加害されていない葉からも放出されているか否かについて明らかにすることを目的とし、実験を行った。

材料・方法
 飼育と実験はすべて25℃、湿度60%(±10%)条件下で行い、明暗周期は16L−8Dとした。ヤドリバエは羽化後48時間以内に交尾させ、交尾後5〜15日目の産卵経験なし、囲蛹50mg以上のメス個体、アワヨトウは終齢1〜2日目、トウモロコシは1ヶ月、体長60cm程度のものを使用した。実験方法は風洞装置を用いた生物検定。加害株を風上に置き、そこから1メートル風下に交尾メスを角砂糖上に放してトウモロコシへの到達率を比較した。1個体につき5分観察し、角砂糖上から飛び立ってからは少なくとも2分観察した。

@トウモロコシにアワヨトウを20匹程度つけて1時間加害させた。加害させた後にアワヨトウを取り除き、検定はその直後と1〜4日後の5回に分け、経時的変化を調査した。トウモロコシを株ごと風洞装置に入れ、一株につき5匹×5回検定した。

A加害株の中で加害葉と未加害葉を作り、葉を一枚ずつ水差しにして風洞に入れ検定し、両者の違いを比較した。葉一枚を加害させた株と葉一枚以外を加害させた株の2種類を作るため、葉一枚を加害させた株には一枚の葉にアワヨトウを5匹つけ、葉一枚以外を加害させた株には一枚の葉をビニールで保護し、それ以外の葉に計20匹程度のアワヨトウをつけた。1時間加害させた後に一株の中から加害葉、未加害葉を一枚ずつ取り出し、それぞれ5匹ずつ検定した。検定には2〜4枚目の比較的若い葉を用いた。
    
結果・考察
@加害直後のトウモロコシへの到達率は78%、1日後は48%、2日後は37%、3日後は32%、4日後は27%で、徐々に到達率は下がった。未加害のトウモロコシを検定したコントロールでは28%だったことから、3、4日後にはほとんど誘引物質は出ていないことが推測できる。有意差は加害直後と1〜4日後の間にみられ、1日過ぎると到達率が大きく下がることが分かった。

A葉一枚を加害させた株の加害葉への到達率は65%、未加害葉は15%、葉一枚以外を加害させた株の加害葉への到達率は60%、未加害葉は5%だった。未加害の株の未加害葉では到達率が15%だったことから、同じ株の中で別の葉が加害されていても直接加害されていない葉からは誘引物質は出ていないことが推測できる。しかし、今回は1時間加害させた直後に検定したため、未加害葉に何かしらの情報が伝わる時間が足りなかったとも考えられる。そこで今後は加害から検定までの時間を延ばした際の影響を調べる必要がある。また、加害葉から誘引物質が出ていることは分かったが、それが直接加害された部分から出ているのか、それとも葉全体から出ているのか検定する必要がある。


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