つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310800

円石藻Emiliania huxleyiにおけるセレノプロテインの単離・精製

三木 悠吾 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:白岩 善博 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<背景、目的>
円石藻Emiliania huxleyiは海産単細胞石灰藻で、円石と呼ばれる炭酸カルシウムの円盤を細胞表面に保持する。海洋中における円石藻のバイオマスは非常に大きく、時に大規模なブルームを形成するなど、環境に与える影響が非常に大きい微細藻類である。
本研究室では既に、円石藻の生育には微量元素としてセレンが必須で、その至適濃度は10nMであることを明らかにしている。セレンはメチオニン及びシステインの硫黄原子が各々セレンに置換したセレノメチオニン及びセレノシステインの形でタンパク質中に存在することが知られている。
セレノシステイン(Selenocysteine)はタンパク質に含まれる他のアミノ酸と違い、直接コードされてない。セレノシステインは、通常はストップコドンとして使われるUGAコドンによってコードされている。すなわちmRNA中のUGAコドンはその下流にSECIS(SElenoCysteine Insertion Sequence、セレノシステイン挿入配列)がある場合にのみセレノシステインをコードする。SECISは一般的に二つの螺旋状の配列と二つの環状の塩基配列の二次構造を持つ特異的な配列である。
セレンは哺乳類において必須元素であり、近年注目されるようになっている。その生体内における役割としては活性酸素消去系で働くグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などが有名である。本研究質はE. Huxleyiが少なくとも6つのセレノプロテイン(SEP1〜6)を持つことを明らかにしている。すなわちこれらが細胞内において高い酸化還元能力をもつ重要な酵素である可能性が高い。さらに小幡らによって一つのセレノプロテイン(SEP2)が単離・精製されている。これに従い、残りのセレノプロテインを単離・精製し、その機能を推定するということを本研究の目的とした。

<方法>
今回の精製では細胞回収・破砕、超遠心、クロマトグラフィーといった順序で行った。
まずは円石藻E. huxleyiの培地中に非放射性亜セレン酸を加えて大量培養を行い、細胞を回収したのちフッレンチプレスもしくは超音波破砕機を用いて破砕した。その後脱塩処理、陰イオン交換、ゲル濾過クロマトグラフィーを行ってフラクションに分けた。
また培地中に放射性亜セレン酸(75SeO32-)を加えたものを培養し、前者と同様の手法で精製を行い、その各段階においてその放射線をマーカーとした。
非放射性のフラクションに放射性のフラクションを混ぜてSDS−PAGEを行い、放射性タンパク質のBAS画像のバンドと一致するものをセレノプロテインのバンドとした。そのバンドが含まれるフラクションの全量をSDS-PAGEで分離し、そこからセレノプロテインのバンドを切り出し、ゲルからセレノプロテインを抽出した。
抽出したセレノプロテイン溶液を2D-PAGEで他のタンパク質の混入がないかを確認した後、消化酵素で断片化した。未消化のもの、断片化したものを愛知県岡崎市の基礎生物学研究所に送り、それぞれN末端解析、内部配列解析を行った。

<結果・考察>
 今回の方法では不完全ではあるものの、90%以上の精度でSEP5の単離に成功した。しかし、SDS-PAGEを行ってのゲル切り出しという方法での単離は検出限界に近く、これ以下のサイズのセレノプロテインを単離することは難しいと考えられる。今後、逆層クロマトグラフィー等の単離方法を検証し最適な条件を検索し、新たな単離方式を確立することが必要であると思われる。


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