つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310802

AFLP法によるシロイヌナズナの胚発生におけるDNAメチル化レベルの解析

宮田 佳奈 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:鎌田 博 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<目的と背景>
 高等植物において、受精卵から胚発生を経て幼植物体が形成されるとき、多数の遺伝子群が各々適切なタイミング、適切な場所で発現することが重要である。しかし、胚発生に関与する遺伝子群とその発現制御機構については、未だ解明されていない点が多い。
 近年、遺伝子発現制御機構の1つとしてDNAメチル化が報告されている。DNAメチル化は、プロモーター領域のシトシンにメチル基を付加することにより、転写因子がDNAに結合する事を阻害し、塩基配列非依存的に遺伝子発現を制御する機構である。
 シロイヌナズナでは、ゲノム全体におけるDNAのメチル化レベルが組織ごとに変動し、DNAメチルトランスフェラーゼをコードするMETHYLTRANSFERASE1の欠損変異体では、胚発生時に形態異常を示す。このことから、胚発生過程において、DNAメチル化レベルの変動を介した遺伝子発現制御により、正常な胚発生の開始・進行が制御されている事が示唆されている。
 本研究では、高等植物の胚発生において、DNAメチル化レベルに変化が見られる遺伝子領域を網羅的に解析することで、DNAメチル化によって制御される胚発生関連遺伝子を同定することを目的とする。

<材料・方法>
 本研究では、分子生物学的解析のモデル植物であるシロイヌナズナを用い、メチル化感受性酵素を用いたAFLP法により、DNAメチル化レベルの変動を解析した。サンプルとして、蕾、花、開花後7日目の鞘を用いた。また、栄養成長時のコントロールとして発芽後5日目の植物体と発芽後2週間目の植物体、胚組織のコントロールとして不定胚を用いた。
 これらサンプルからDNAを抽出し、切断頻度の高い酵素(フリュークエントカッター)であるHpaUもしくはMspTと、切断頻度の低い酵素(レアカッター)であるEcoRTで切断した。HpaU、MspTの2種類の酵素は、認識配列は同じであるが、認識するDNAメチル化の位置が異なるため、メチル化が付加された位置を推測できる。
 酵素によって切断したDNA断片は、DNAライゲースを用いて短いDNA断片を結合し、2段階のPCRを行い増幅した。プライマーは、HpaUもしくはMspT側に3つ、EcoRT側に2つ、ランダムに塩基(選択塩基)をつけ、増幅されるバンドを絞り込んだ。また、EcoRTの切断面についたDNA断片に対応するプライマーに蛍光標識ROXをつけたものを用いた。このPCR産物を6%のアクリルアミドゲルで泳動し、蛍光を検出した。
 得られたバンドパターンを解析し、胚発生過程と栄養成長期で異なるバンドや、胚発生過程で変化していると推測されるバンド等をゲルから切り出し、シークエンス解析を行った。

<結果・考察>
 現在、選択塩基の4種類の組み合わせについて、AFLP法を行ったサンプルの泳動結果が得られている。バンドパターンを解析した結果、栄養成長期と生殖成長期での違いが見られた(Fig1)。このことから、シロイヌナズナでは、胚発生時と栄養成長期に、DNAメチル化レベルが変動するゲノム領域が存在することが示唆された。変動が見られた10バンドについては、現在、シークエンス解析を行っている。今後、複数のサンプルを用いて再現を取り、胚発生段階で変化するバンドパターンを確認する予定である。また、DNAのメチル化レベルが変化しているゲノム領域の中で遺伝子をコードしているものについては、遺伝子発現との相関、DNAメチル化レベルが変化する塩基等をより詳細に解析し、DNAメチル化による胚発生遺伝子の発現制御の一端を明らかにしていきたい。
 
Fig.1 AFLP法泳動結果の一例。赤矢印のバンドは蕾と花で特異的に見られるものである。


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