つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310804

アカマツに穿孔する樹皮下キクイムシの随伴青変菌相

森田 紘一郎 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:山岡 裕一 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景と目的】
 青変菌とは材に侵入し青色がかった変色を引き起こす菌類である。青変菌の中には樹皮下キクイムシ(以下キクイムシ)によって伝播される種があることが知られている。升屋(1998)は本州各地のアカマツに穿孔するキクイムシに随伴する青変菌の種類、およびキクイムシとの関係について調査を行った。しかし、調査地が限られており、特に中部地方からの情報は少ない。そこで本研究では、菅平高原におけるアカマツに穿孔するキクイムシに随伴する青変菌相を明らかにすることを目的とした。

【材料と方法】
 試料の採集は、長野県の筑波大学菅平高原実験センターのアカマツ林内で行った。菅平実験センターは標高約1300m、気候は冷温帯であり、約8.5haのアカマツ林が広がっている。2006年5月4日~5日に冬の間に雪折れしたアカマツの枝を約35年生のアカマツ林内数箇所にまとめて置き、2006年7月10日~12日に回収した。回収した枝は実験室で樹皮を剥ぎ、母孔壁、蛹室壁の木片、および虫体を1%麦芽エキス寒天平板培地上に置き、15℃暗黒条件下で培養した。また、その枝から厚さ5~10cmのディスクを切り出し、母孔、蛹室とディスクの中心を結ぶ半径に沿って割断し、現れた面の辺材部から木片をとり、同様に培養した。平板培地上に生育したコロニーの菌糸、または胞子を新しい培地に移植し、菌類の分離を行った。形態観察の結果に基づき主要な青変菌の仲間であるOphiostoma属菌とそのアナモルフについて同定を行った。

【結果と考察】
 得られたキクイムシは表1に示す5種であった。その虫体、母孔、蛹室、辺材部からはLeptographium wingfieldiiOphiostoma sp.、およびPesotum属菌3種の計5種の青変菌が分離された。L. wingfieldiiはマツノキクイムシとCryphalus sp.から分離されたが、特にマツノキクイムシの蛹室、蛹室下辺材部から高頻度に分離された。本菌はヨーロッパではマツノキクイムシによって媒介され、高頻度に分離される種として報告されている(Solheim and Långström, 1991)。しかし、升屋(1998)の報告ではマツノキクイムシからの出現頻度は低かった。今回の結果から本菌は日本でも高頻度に分離されるケースがあることが明らかになった。
 Ophiostoma sp.はCryphalus sp.以外の4種のキクイムシから分離された。本菌は子嚢殻、子嚢胞子の形態からO. europhioides complexの一種であると考えられ、これまでに日本産アカマツに穿孔するキクイムシからは報告されていない種であった。しかし、マツノキクイムシからの出現頻度が低いこと、その他3種のキクイムシのサンプル数が少ないことから、特定のキクイムシとの関係を明らかにすることができなかった。3種のPesotum属菌に関しても同様の理由により、特定のキクイムシとの関係を明らかにすることができなかった。
 升屋(1998)の報告では、アカマツに穿孔するキクイムシ随伴青変菌の中でO. koreanumが最も一般的な菌であるとされていたが、今回は分離できなかった。また、L. wingfieldiiがマツノキクイムシから高頻度で分離できたこと、今までに報告のないOphiostoma sp.が分離できたことなど、今までの報告とは異なる結果が得られた。その原因については今後もさらに調査を重ね、検討する必要がある。


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