つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310807

クラミドモナスの回避反応とカルシウムチャネルの研究

柳澤 文香 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:吉村 建二郎 (筑波大学 生命環境科学研究科)


目的・背景
 クラミドモナスは光刺激や機械刺激に対して顕著な反応を示すことが知られている。たとえば、強い光を照射すると細胞が後退遊泳するphotophobic responseがある。この反応は、鞭毛のカルシウムチャネルからカルシウムイオンが流入することで生じる電気的な興奮によって引き起こされることが分かっている。クラミドモナスでは、鞭毛での電気的興奮に異常があり、photophobic responseを示さない突然変異体 ppr1, ppr2, ppr3, ppr4が単離されている。その中でも、 ppr2は、カルシウムチャネルに異常があることが分かってきている。
 一方、ゾウリムシでみられるような細胞が障害物にぶつかったときに、繊毛・鞭毛の打ち方を変えて後退遊泳するというmechanoresponseもクラミドモナスにあると考えられているが、これまでに詳しい記述がなされていない。そこで、本研究では、クラミドモナスがものにぶつかったときの遊泳と鞭毛の打ち方の変化を記録した。また、その反応で鞭毛での電気的興奮性が関与しているのかを探るために、ppr株でのmechanoresponseを検討した。

結果
 クラミドモナスの野生株のmechanoresponseの映像をデジタルビデオカメラで撮影した。そのmechanoresponseの軌跡の一例が図1である。
1. はじめは平泳ぎのストロークのように二本の鞭毛を打って前進遊泳していた。
2. プレパラートにぶつかると二本の鞭毛を波打たせる打ち方に変えて後退遊泳した。後退遊泳は約0.4秒間続いた。
3. その後再び鞭毛を平泳ぎのようにかく打ち方に変化させて前進遊泳に戻った。
 野生株をコントロールとし ppr1, ppr2, ppr3, ppr4でmechanoresponseが起こる頻度を調べ、mechanoresponseに鞭毛のCaイオン興奮性は関与しているのかを調べた。その結果、いずれのppr変異体でもまったくmechanoresponseを示さないことが分かった。この結果は、mechanoresponseでも、photophobic responseと同様に鞭毛での電気的興奮が関与していることを示している。
 さらに、 ppr2と野生株を掛け合わせて、子どもをとりphotophobic response とmechanoresponseの反応性を調べた。37コロニー得られた子孫のうち、21個体は両方の反応を示したが残りの16個体は両方の反応とも示さなかった。photophobic responseとmechanoresponseの異常がリンクしていることから、同一の遺伝子によって決められている反応であることがわかった。今後は、さらにこれらの子孫についてカルシウムチャネル遺伝子の異常とのリンクを調べることにより、mechanoresponseとphotophobic responseを引き起こす遺伝子が ppr2の原因遺伝子と関連があるか探る予定である。

図1 クラミドモナスのmechanoresponseの軌跡


©2007 筑波大学生物学類