つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200310810

ヘム酵素の構造機能および反応機構の解析

和田 浩一 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:田中 俊之 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<背景・目的>
 これまでシュードモナス・クロロラフィスB23株においてニトリル代謝系に関する研究が行われてきた。ニトリルというのは、炭素と窒素の3重結合を持つ化合物の総称で、一般に高い毒性を持つため難分解性の化合物である。シュードモナス・クロロラフィスB23株には、ニトリル代謝に関与しているニトリルヒドラターゼ、アミダーゼといった遺伝子がクラスターを形成して存在しており、この領域について様々な研究が行われてきた。さらに近年の研究により、この遺伝子クラスター上流域にニトリル合成に関与する領域が発見された。この領域には、アルドキシムからニトリル合成を行う酵素であるアルドキシムデヒドラターゼをコードする遺伝子が存在していた。この新規に発見されたアルドキシムデヒドラターゼを大腸菌で発現させ解析したところ、サブユニット当たり1分子のヘムを持つヘム酵素であることがわかった。さらに解析が行われた結果、このアルドキシムデヒドラターゼは、一般的なヘム酵素のような酸化還元反応を触媒せず、水中で脱水反応を触媒するという特性を持っていた。当初、アルドキシムデヒドラターゼに関する研究例がほとんどなくその詳細については不明な点が多かったが、現在では徐々にその構造および機能が明らかになってきつつある。しかし、今もなおその反応機構の詳細については解明されていない。

 本研究では、この新規に発見されたアルドキシムデヒドラターゼの構造機能に関わるアミノ酸を同定することを目的とした。

<方法>
 現在までに報告されているアルドキシムデヒドラターゼスーパーファミリーに属する酵素群のアミノ酸配列を比較して保存されているアミノ酸残基を決定する。そして、そのアミノ酸残基を部位特異的変異法により別のアミノ酸残基に置換した変異アルドキシムデヒドラターゼ遺伝子をPCRによって増幅させ、変異酵素用の発現ベクターを構築する。この作成した発現ベクターを大腸菌に導入し、変異酵素を発現させ、超音波破砕処理によって無細胞抽出液を調製し、活性測定を行う。得られた活性値を野生株のものと比較し、それぞれのアミノ酸残基の役割を考察する。

<結果>
 活性アミノ酸残基候補に変異を入れる前に、のちの精製過程を容易に進めるために本アルドキシムデヒドラターゼのN末端側あるいはC末端側にHisタグを融合した発現ベクターをそれぞれ構築し発現させてみた。しかし、C末側にHisタグを融合した酵素は可溶性に発現しなかった。一方、N末側にHisタグを融合した酵素は可溶性に発現したものの、各種クロマトグラフィーにより単一に精製した結果、比活性が野生型酵素の半分以下であった。この結果より、Hisタグを融合しないアルドキシムデヒドラターゼで実験を進めることにした。
 現在、活性アミノ酸残基候補に変異を導入した発現ベクターを構築し、大腸菌を宿主として発現実験を行っている。

<今後の予定>
 部位特異的変異によってアルドキシムデヒドラターゼの比活性が変化するようなアミノ酸残基を決定し、これまでに得られているデータと照らし合わせながらこのアルドキシムデヒドラターゼの反応機構を明らかにしていく予定である。


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