つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200701200319015

脂肪細胞における緑茶カテキン類の生理機能解析

濱田 侑子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:坂本 和一 (筑波大学生命環境科学研究科)

【背景】 脂肪細胞は、筋細胞や軟骨芽細胞と同じように中胚葉由来多能性幹細胞から発生・分化して生じる。哺乳類には白色脂肪細胞(WAT)と褐色脂肪細胞(BAT)の二種類が存在する。白色脂肪細胞は余剰のエネルギーを中性脂肪として貯蔵し、エネルギー不足状態に応じてそれを脂肪酸に分解し血中に放出する機能をもつ。一方、褐色脂肪細胞は、脂肪酸を自らの細胞内で酸化分解し熱を発生させることによってエネルギーを熱として消費する機能をもっており、両者は機能的にも、形態的にも異なる細胞である。 近年、脂肪細胞において茶による生活習慣病の予防効果に期待が寄せられている。ツバキ科に属する茶には様々な成分が含まれているが、中でも数多くの生理作用が報告されているのがカテキン類である。カテキン類は、抗酸化作用、抗がん作用、脂質代謝改善作用の役割をもつことが知られている。これまでに、茶成分が示す肥満抑制作用機構を解明するために、マウス胎児由来の3T3-L1前駆脂肪細胞などの培養株細胞をモデル系として多くの研究がなされてきた。通常、3T3-L1の分化過程は、段階的な細胞内での脂肪滴の蓄積として観察されるが、3T3-L1を脂肪細胞へと分化誘導させる際にカテキンを添加したところ、細胞内への脂肪の蓄積が抑制された。これは脂肪細胞分化の重要な制御因子であるPPAR (Peroxisome Proliferator- Activated Receptor)γとC/EBP (CCAAT/Enhancer-binding Protein)αの発現量がカテキンにより抑制されるためであると考えられている。 本研究では、3T3-L1前駆脂肪細胞だけでなく、p53欠損マウスから分離・不死化した白色脂肪細胞株HWや褐色脂肪細胞株HB2を用いて、脂肪細胞の分化過程に及ぼす緑茶カテキン類の生理作用とその作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。

【方法】  実験には、マウス胎児由来の3T3-L1前駆脂肪細胞、およびp53欠損マウスから得た白色脂肪細胞株HWと褐色脂肪細胞株HB2を用いた。 細胞を24well plateに5x104cells/wellの密度で播き、インスリン、isobutyl-methylxanthine(IBMX)、dexamethasone (dex)の分化誘導剤を添加して分化誘導をおこなった。カテキン類はepigallocatechin gallate(EGCG)を用い、EGCG 5、10、50、100、200μMを時期別(培養開始 0−2日目、2−4日目、4−6日目、0−8日目)に添加した。培養8日後に4%paraformaldehydeで細胞を固定した後、OilRedO染色によってカテキン類が脂肪細胞の分化誘導過程に及ぼす効果を観察し、定量化した。  次に、脂肪細胞分化マーカーであるPPARγや C/EBPα等のmRNAの発現に対するEGCGの効果を調べるために、RT-PCR実験を行った。6cm dishにHW白色脂肪細胞株とHB2褐色脂肪細胞株をそれぞれ3x105cells/dishの密度で播き、分化誘導後にEGCG 50μMを添加した。0、2、4、6、8日後に細胞を回収して、RNAを抽出し、RT-PCR法により各遺伝子のmRNAの発現を調べた。

【結果・考察】  白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の両方で、未処理の細胞内には脂肪適が蓄積されたのに対して、0−2日目にEGCGを添加した際、未分化の細胞が多くみられ、分化の抑制が認められた。白色脂肪細胞では、0−8日目までにEGCGを添加した場合にも分化の抑制が観察されたが、死滅した細胞が多かったことからアポトーシスが誘導された可能性も考えられた。また、蓄積される脂肪滴の量だけでなく、細胞自体の大きさが変化する肥大化現象もみられたが、これに関しては更に調べる必要がある。現在、PPARγやC/EBPファミリーなど脂肪細胞分化に関わる転写因子の発現に対するカテキン類の作用と作用機序を調べている。


Fig.1 白色脂肪細胞株HWと褐色脂肪細胞株HB2の分化誘導過程に
及ぼすカテキン類EGCG(100μM, 200μM)の効果
(OilRedO染色による観察)

 


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