気孔
維管束植物の葉や茎の表皮には多数の気孔(stoma, pl. stomata)が存在し、外界との間でガス交換(水、二酸化炭素)を行っている。気孔は対になって存在する2個の孔辺細胞(guard cell)と、その間に形成される開口部(opening, aperture, pore)からなる*。開口部は植物体内の間隙につながっており、この空気間隙を呼吸腔(respiratory cavity)という。孔辺細胞に接した表皮細胞のうち、周囲の表皮細胞とは形態が異なる細胞のことを副細胞(subsidiary cell)という。孔辺細胞と開口部、副細胞からなる細胞集団は気孔装置(stomatal apparatus)とよばれる。気孔装置は副細胞の有無や配置によってさまざまなタイプ(気孔型)に分けられ、おもなものに以下のようなものがある。
*開口部のみを気孔ということもある
- 不規則型(anomocytic)
- 副細胞がないもの。被子植物では最もふつうに見られる。
- 直交型(diacytic, caryophyllaceous)
- 2個の副細胞で囲まれ、この2個が接する軸が孔辺細胞と直交するもの。キツネノマゴ科などに見られる。
- 平行型(paracytic)
- 2個の副細胞で囲まれ、この2個が接する軸が孔辺細胞と平行なもの。モクレン科、クスノキ科、イネ科などに見られる。孔辺細胞が完全に取り囲まれているものはlaterocylic、不完全に取り囲まれているものはbrachyparacyticと細分される。
- "側方"型(laterocytic)
- 3個以上の副細胞が孔辺細胞の横に接しているもの。
- 不等型(anisocytic)
- 3個の副細胞に囲まれており、そのうち1つが他よりも小さいもの。ベンケイソウ科やイワタバコ科、マツムシソウ科に見られる。
- 十字型(tetracytic)
- 4個の副細胞で囲まれ、2個が孔辺細胞の長軸、2個が短軸に平行にならぶもの。ミゾハコベ科、オモダカ科などに見られる。孔辺細胞に沿った2個が大きいものをヤシ型、小さいものをサトイモ型と細分することもある。
- ""型(staurocytic)
- 4個(ときに3または5個)の副細胞で囲まれ、それぞれ孔辺細胞長軸に対して斜めに配置しているもの。
- ""型(allelocytic)
- 3個以上のC型の副細胞が孔辺細胞を取り囲んでいるもの。副細胞が孔辺細胞に対して直角に配置されたものをdiallelocytic、平行に配置されたものをparallelocyticという。
- "らせん"型(helicocytic)
- 3個以上の副細胞がらせん状に孔辺細胞を取り囲んでいるもの。
- 放射型(actinocytic)
- 5個以上の副細胞が放射状に孔辺細胞を取り囲んでいるもの。
- "周縁"型(cyclocytic)
- 5個以上の小さな副細胞が孔辺細胞を取り囲んでいるもの。副細胞は放射状に伸びてはいない。
- ""型(stephanocytic)
- 4個以上のあまり分化していない副細胞に取り囲まれているもの。
気孔型は科以下の分類群でほぼ一定のことが多いが、セントポーリア(イワタバコ科)において子葉が不規則型、成葉が不等型のように同一種内でも変異があることもある。
気孔の発生は最初、表皮にある細胞が不等分裂して大きな細胞と小さな細胞に分化することで始まる。小さな細胞はメリステモイド(meristemoid)であり、孔辺母細胞となる。それ以降の過程には変化が見られ、以下のような発生型に分けられる。上記の気孔型が同じでも、発生型が異なることがある。
- 無発生型(agenous)
- 孔辺母細胞が1回分裂して2つの孔辺細胞となるもの。副細胞は生じない。よって、できた気孔は不規則型である。
- 周囲起源型(perigenous)
- 孔辺母細胞は分裂して1対の孔辺細胞となり、副細胞は周囲の表皮細胞が分裂して生じるもの。
- 中央起源型(mesogenous)
- 孔辺母細胞が分裂してできた片方がもう1回分裂して1対の孔辺細胞になり、もう一方がそのままもしくはさらに分裂して副細胞になるもの。
- 中央周囲起源型(mesoperigenous)
- 副細胞のうち、少なくとも1つは孔辺母細胞起源であり、他は周囲の表皮細胞起源のもの。
孔辺細胞は細胞壁が不均一に肥厚しているため、水分量に応じて一定の変形をし、気孔が開閉する。この変形には微小管も関与しているらしい。気孔の開閉運動には以下に挙げるようなタイプがある。
- 原始型(prototype)
- 孔辺細胞の内側(開口部側)の細胞壁が薄く、その外側の細胞壁が厚い。膨圧が増すと孔辺細胞は主として垂直方向に伸張し、気孔は開口する。シダ類に見られる。
- スイセン型(Narcissus type)
- 孔辺細胞の外側の細胞壁が薄いため、膨圧が高まると孔辺細胞は外側へ膨らむ。これによって内側の細胞壁が湾曲し、気孔は開口する。もっとも普通に見られる。またネギ(ネギ科)やアヤメ(アヤメ科)の気孔では、孔辺細胞が上外側へ膨潤することによって開口する。
- イネ型(Gramineae type)
- 孔辺細胞はアレイ形をしていて両端の膨潤部の細胞壁が薄く、中央部の細胞壁が厚い。膨圧が増すと両端の膨潤部が膨れ、それに伴って中央部が両端へ引っ張られることによって開口する。イネ科に見られ、球果類やソテツ類の気孔もこれに似ている。
気孔はシュート、特に葉の表皮に存在するが、地下茎や根にはみられない。また水生植物では、沈水部分には気孔は存在しない。ふつう葉の表面には40〜300個/mm3程の気孔が存在するが、一様に分布していることは少なく、ふつう葉の表面より裏面に多いが、均等にある場合や逆に裏面に全く存在しないこともある(浮葉植物など)。またベゴニア(シュウカイドウ科)では気孔が局所的に集中しており、またウラジロモミ(マツ科)などでは線状に分布して気孔条(stomatal zone)を形成する。
ときに気孔は表皮の面よりもかなり下がった位置に開口している。アロエ(アロエ科)、リュウゼツラン(リュウゼツラン科)、トクサ(トクサ綱)などでは、気孔が表皮面よりも下にあり、気孔上側に表皮細胞で囲まれた腔所(外部呼吸腔 external respiratory cavity)がある。
気孔は維管束植物の胞子体のみに見られるが、ツノゴケ類や蘚類の胞子体にも気孔様の構造があり、進化的に同起源のものとする意見がある。
またゼニゴケ(苔綱)などの配偶体表皮には、気孔とは異なり開閉能のない小さな孔が存在する。この構造は気室孔(air pore、呼吸孔 respirator pore)とよばれる。
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