
ストラメノパイルに属する生物の共通の特徴である管状マスチゴネマ (tripartite tubular mastigonemes) は,多様な藻類のなかで黄色植物を特徴づける第一の特徴です。黄色植物は管状マスチゴネマをもつ真核生物のなかで,光合成能力を獲得した生物の仲間です。
コンブ (Laminalia)やワカメ (Undaria) は褐藻類で,日本人の食生活に欠かせないものですが,褐藻類は一方で,海の森林を形成し,,海洋における生産者として重要であるほか,沿岸の魚やその他の動物の生息の場を提供しています。いわゆる藻場(もば)です。そのほか,化粧品やアイスクリームなどに粘性をもたらす成分であるアルギン酸の供給源として,産業的にも極めて重要です。
黄色植物は褐藻類を頂点としていますが,そのほか多くの微細な仲間を含んでいます。そしてこれらは海洋だけでなく,湖沼を含めた水界の基礎生産者として重要な役割を果たしています。なかでも珪藻類は地球上のいたるところで生息する微細藻類で,土壌の表面,樹木や家の塀や壁などの表面にも生育しています。
細胞の一般的特徴
最大の特徴はもちろん,鞭毛の1本に管状マスチゴネマをもつことです。
そのほかにも多くの黄色植物に共通する特徴が知られています。
黄色植物のほとんどの仲間は,基底小体と鞭毛の移行部(transition
region)にトランジッショナル・ヘリックスと呼ばれるらせん構造をもっています。この構造がどんな機能をもっているか全くわかっていません。しかし,黄色植物に幅広く分布し,他の藻類の仲間には見られないことから分類形質として重要視されています。黄色植物のなかでは,トランジッショナル・ヘリックスは褐藻やラフィド藻にはみられないなど,綱の階級の重要な形質です。
黄色植物の仲間の遊泳細胞では,後鞭毛(または短鞭毛)は細胞表面の窪みに沿って後方または側方に伸びる。この基部は鞭毛膨潤部(flagellar
swelling)とよばれる膨らみをもつ。鞭毛膨潤部はちょうど窪みに接している眼点の上に位置するように配置されており,眼点−鞭毛膨潤部複合体を形成している。鞭毛膨潤部には電子密度の高い物質があり,蛍光顕微鏡で見ると黄緑色の自家蛍光を発する。これはフラビン様の物質で,光受容の役目を果たしているとと考えられている。このとき眼点はパラボラアンテナのように集光装置として働く。
ユーグレナ植物の光受容装置
鞭毛装置
黄色植物の多くは基本的な形質を共有した鞭毛装置をもっている。黄金色藻のオクロモナス目の藻類の鞭毛装置を例に説明する。
その他の黄色植物の鞭毛装置
基底小体(または鞭毛)の配置は分類群によって異なっているが,微小管性鞭毛根の生ずる位置は基本的に等しい。特に鞭毛根1(R1)に骨格微小管が付随していること,鞭毛根3(R3)は基部で微小管が樋状に配列していること(断面ではC字形に配列)などの特徴が多くの分類群に共通している。卵菌類にも黄色植物と相同な鞭毛装置がみられる。
光合成色素
光合成色素組成から見ると,黄色植物はクロロフィルaとcおよびキサントフィルとしてフコキサンチン(fucoxanthine)をもつ褐藻類を中心とする仲間で,綱のレベルで認識される多くの光合成生物を含んでいます。
葉緑体のページ
注:ハプト藻は類似の色素をもつが,全く異なる仲間です(ハプト藻の説明を参照)。
植物の分類は葉緑体の性質に基づいてなされることが多いのですが,葉緑体は共生起源であることはほとんどの研究者が認めるに至っています。
細胞共生(endosymbiosis)による藻類の多様化
植物の分類と系統の認識は細胞本体の性質に基づいてなされるべきです。
4重包膜,ガードルラメラ,リング状DNA
黄色植物の葉緑体は形態的に4枚の包膜をもつことで特徴づけられる。4枚のうち内側の2枚は葉緑体膜
(chloroplast membrane)で,緑色植物や紅色植物の葉緑体と共通の膜と考えられる。外側の2枚の膜は葉緑体を包む膜で葉緑体ER
(chloroplast endoplasmic reticulum)とよばれる。外側の2枚の外膜の内側の膜と葉緑体の間にはペリプラスチダルコンパートメント
(periplastidal compartment)とよばれる空間がある。この空間には小胞が存在する。外側の膜は核の外膜
(outer nuclear membrane)と連続している。外側の膜の表面にはリボソームが付着している。つまり粗面小胞体の形態をとっている。このことは葉緑体ERでタンパク質の合成が進行していることを示唆している。葉緑体が4枚の包膜をもつことは,ハプト藻,クリプト藻と共通の性質である。クリプト藻ではペリプラスチダルコンパートメントにリボソームを含む細胞質とDNAをもつ小器官であるヌクレオモルフが存在するが,黄色植物とハプト藻のそれには小胞がみられるだけで,明瞭な細胞質は存在しない。
葉緑体内部の特徴は,葉緑体膜直下にガードルラメラ
(girdle lamella)とよばれる袋状(断面ではリング状)のラメラが存在することである。その内側に板状の三重チラコイドがある。黄色植物の多くではガードルラメラの内側に沿ってリング状の葉緑体DNAがみられる。ハプト藻の葉緑体は多くの点で黄色植物のそれに類似しているが,ガードルラメラとリング状DNAが存在しない点で異なっている。一部の黄色植物ではハプト藻と同様いずれの構造もみられない。
黄色植物の葉緑体の起源
クリプト藻やクロララクニオン藻と同様に,真核藻類の共生によって獲得されたと考えられています。つまり,ヌクレオモルフをもった状態からさらに共生体の核の退化が進行し,ついにすべての共生体の核(ヌクレオモルフ)の遺伝子が核に移行した結果,ペリプラスチダルコンパートメントからリボソームを含む細胞質が消失し,葉緑体は4枚の包膜だけに包まれるようになったというものです。このことの直接的な証拠はまだ発見されていません。