クロララクニオン植物は緑色の葉緑体をもつアメーバ状生物である。

Chlorarachnion クロララクニオン

緑色植物やユーグレナ植物と同様に光合成色素としてクロロフィルaとbをもつが,細胞の構造は多くの点で異なっている。細胞内には内側に突出したピレノイドをもつ複数の葉緑体がある。



葉緑体の構造を詳しくみると,次のような特徴を持つことがわかる。

葉緑体は葉緑体ERの2枚の膜によって包まれている。
葉緑体膜と葉緑体ERの間にはペリプラスチダル・コンパートメント(periplastidal compartment)とよばれる区画がある。
ペリプラスチダル・コンパートメントには孔の開いた二重膜に包まれたヌクレオモルフ(nucleomorph)と細胞質と同じ真核型の80Sリボソームが存在する(注:葉緑体のリボソームは70Sとやや小さい)。
ヌクレオモルフはDNAとRNAをもち,分裂して娘細胞に伝えられる。つまり自己増殖する。

 クロララクニオンの葉緑体を含む区画



このような事実から,

ペリプラスチダル・コンパートメントと葉緑体を含む区画は真核生物の共生に由来する。
ヌクレオモルフは共生体の核のなごりである。

と理解されるようになった。

これはクリプト藻と全く同一の状況である。

クリプト植物とクロララクニオン植物の発見によって,真核藻類の共生によって葉緑体が獲得され,新たに真核光合成生物が形成される過程がいくつかの系統で起こったことが想定できるようになった。


オーストラリア,メルボルン大学のMcFaddenらは,ヌクレオモルフのDNAにはペリプラスチダル・コンパートメントに存在する80Sリボソームをコードする遺伝子があり,核DNAにコードされる細胞質リボソームとは異なることを明らかにした。彼らはヌクレオモルフ内には線状の3本のDNA(染色体)があることも明らかにした。これは葉緑体やミトコンドリア,そして原核生物が環状のDNAをもつことと対照的である。この性質は核DNAに近い。

現在では葉緑体ERに包まれた区画は真核藻類の共生体のなごりであることは広く認められている。


クロララクニオンの葉緑体(+ヌクレオモルフ+ペリプラスチダル・コンパートメント)はクロロフィルa・bをもった真核の藻類に由来すると考えられているが,まだどのような緑色植物が共生したのかわかっていない。色素組成からプラシノ藻が候補とされる一方,アオサ藻類が共生したとの説もある。


クロララクニオンの宿主

クロララクニオンの宿主細胞の起源についてもまだ確かなことはわかっていない。

クロララクニオンは1本鞭毛をもち,鞭毛を細胞に巻き付けて泳ぐ特異な遊泳細胞をつくる。



このような遊走細胞をつくる藻類または原生生物の仲間は知られておらず,形態から宿主の祖先生物を推定するのは難しい状況にある。核とヌクレオモルフの18SrRNAの遺伝子などを用いて宿主と共生体の起源を探る研究が行われている。

クロララクニオン植物は,葉緑体をもたず,1本鞭毛をもち,アメーバ状の体制をもつ原生生物に緑色の真核藻類が共生することで成立した光合成生物と考えられる。

クロララクニオンの成立過程